第7話 謝罪ー1(改稿済)
ゴブリン村に戻ってきた俺達は、ルードゥが呪いの短剣の影響で暴走している時に被害を受けたという各家に謝って回っていた。
「次で最後だ、もう少し頑張ろうな」
「うん、でも皆……簡単に許してくれタ。なんだか償えた気がしないヨ」
「大丈夫、だったら傷付けてしまった分多くの人や魔物を助ければいいさ。幸い死んでしまったゴブリンはいないみたいだし、大丈夫」
「そ、そうだネ……分かっタ」
最後の家に入り、まず2人で頭を下げる。
出迎えたのは1人の雄ゴブリン。
父親だろう、どっかりと地面に
それにしても……例え被害を受けた側が許しても加害者が罪悪感で潰れてしまう、なんてコトもあるんだな。今回は無意識下でやってしまったことだから余計に罪悪感を感じてしまうのだろう。
お酒飲んで酔ってる間に色々とやらかした人が、後日一日かけてペコペコ頭下げてたのを見たことあるし、義理堅いタイプや責任感が強いタイプに限ってそういう傾向があるんだよな。
うん、つまりルードゥは責任感が強い良い奴ってことだな! うーん……やっぱり仲良くなれない理由が分からないぞ。
何故見た目が違うってだけで殺す殺されるになってしまうんだ? ちょっとでも話せば分かるだろうに……。
「ごめんなさイッ! 何か、僕に出来ることはありませんカ? 貴方の子供を傷つけてしまった償いがしたいんでスッ!」
「……帰れ。話すことなど、何もない」
そんなコトを考えていたら、いつの間にか話が進んでいた。
潔い奴だなぁ……こういうのも、カッコ良さの一つと言えるかもな。
悪いことをしたら言い訳せずに素直に謝る、それが誠意ってモンだ。
子供の頃ってそれがなんとなく恥ずかしいんだよなぁ……特に14歳ぐらいの時。
やれと言われるとやりたくなくなるし、やるなと言われるとやって困らせたくなる。
まぁ、要は構って欲しいけど素直に言うのが恥ずかしいから変な行動とか奇抜な服着て注目を浴びようとするんだよな。
……なんて、現実逃避してる場合じゃないか。
他の家の者達は割と容易く許してくれたが、やはりそう簡単に済む話ではなかったのだ。
「で、でもッ!」
「うるさい、黙れ! そして今すぐこの場から消え去れ。
償いがしたいと言っていたな? ならば今後二度と俺達に関わるな……それが、お前に出来る唯一の償いだ」
……これは、出直した方が良さそうだな。
「帰るぞ、ルードゥ。これ以上は、むしろ迷惑になってしまう」
「え、でも……」
「いいから」
「ホント、ごめんなさいッ!」
そそくさと退出する。
村長の家は、人間のソレと大差ない大きさだったが、一般ゴブリン達の家は違う。いつまでも俺達が邪魔をしていたら、のんびりと寝転がることも出来なくなってしまうのだ。
この家は、全部で3つの部屋で構成された藁の家だ。
俺達が先程までいた場所が茶の間、皆で食事を摂ったり駄弁ったりする場所だろう。で、そこから見て右にあるのが寝室、左にあるのがキッチンだ。
全体図的に言うと、割と大きな三角形の藁が3つ横に並んでる感じか。
若干の居心地の悪さを感じながらも、俺達がそのまま村長宅に依頼達成の報告をしに行こうとしていたその時!
「待ってください!」
声をかけられた。
高い声だ、恐らくは女性だろう。
「うちの旦那がすみません……少し、貴方達に話したいことがあるのです」
うちの旦那? ってコトはこのゴブリン、ゴブ蔵さんの奥さんか。
へぇ、こんな美人を捕まえるとは……ゴブ蔵さんもやるな。
まぁ、ゴブ蔵さんもゴブ蔵さんで結構カッコイイ方だと思うが。
というか、魔物だなんだ言ってるけど、そこまで人間と変わりなくないか?
だって実際、背が低くて肌が縁色なだけで、文化的にも顔的にもあまり変わらないぜ? 今回謝罪の為に各家を回ったからこそ気付いたことだが……。
余計に魔物差別の理由が分からなくなった。
「それで、話したいこととは?」
「はい。でもその前に……」
パシンッ!
うおっ!? こりゃ強烈なのが入ったな。
いきなり過ぎてちょっと混乱しているが、まぁ子供が傷付けられたとあっちゃ親的に黙ってはいられないよな。
それにしても……ビンタなんて、5歳の時孤児院の女の子泣かしちゃって先生にやられた時以来されてないな。
ってか、今思うとホントクズだったな……俺。
確か、その娘が可愛かったからとにかく何とかして、気を引きたかったんだけど。何故それで泣かせることになったんだっけ?
う~ん……あ! 思い出した。
カエルが苦手って言ってたからカエルのおもちゃを服の中に入れたんだ。
反応が面白そうだなぁ~って思ってやったんだっけかな? あと、周りからウィルとあいつは仲が良いと思われたかったんだ。
俺の頭の中では『むー、もう許してあげないんだから!』とむくれ顔で言われてからなんだかんだあって『仕方ないなぁ、ウィル君ったら……』の展開まで進んでいたんだが……まさか泣く程とは思っていなかった。本物ならまだしも、俺が入れたのおもちゃだからな。
困った顔を見るのは好きだが、痛くて泣く顔や悲しくて泣く顔は見たくない。嬉しくて泣く顔なら幾らでも見ていられるが、あれらは胸が痛い。
「大丈夫か? ルードゥ」
「う、うん……でも、一体?」
「ふぅ……これで落ち着いて話せます。あの子の母として、とりあえず一発ビンタでもしとかないと、まともに話が出来そうになかったので。ゴブ吉、来なさい。貴方に謝りたい人が来ています」
ゴブ吉……雄か。
「……」
親の指示に従い家から出てきたのは、身長100センチ程の目つきの悪い雄ゴブリン。四肢はちゃんと揃っているようだ。
もしこれが雌だったら……あるいは四肢に欠損が生じていればもっと酷いことになっていただろう。
男女で差別する気はないが……こう言ってはなんだがルードゥよ、傷付けてしまったのが雄で良かったな。生物にとって繁殖の要となる雌は、何より優先し尊び守るモノだろうから。
まぁルードゥがいたのは山だし、狩りに男衆が行く事はあっても女衆が行くことは無かったのだろう。
だから怪我人に雌ゴブはいなかったし、戦場慣れした狩人……戦士しか山に行かないから四肢欠損などの今後の生活に関わる大きな被害も出ずに済んだ。
戦士であれば村の保有する戦力の低下になるし、雌であれば単純に腹が立つ。
そんな中一人だけ人間で言う所の少年であるゴブ吉が怪我をしたのは、彼が遊びたい盛りで好奇心旺盛な子供であったが故だろう。
不幸中の幸い、という奴か見た所大きな怪我はないようだが……。
だがもし、怪我の度合いが酷ければ……その上ルードゥの――友のやらかしたコトでなければ俺は共に謝るなどせず、犯人を縛り上げゴブリン達に突き出しただろう。
そして武器を渡し存分に怨みを晴らさせる。
死んでさえいなければ、どこまで傷つこうが俺は止めはしなかった……多分。
殺しはしないが、最低でも同じ痛みを味わわせるべきだと思うからだ。
復讐は何も生まない……よく聞く言葉だが、感情というのはそう上手く行くものではない。
怒りや憎悪、悲しみ……様々あるが、そういう感情は復讐でしか晴らせないモノだ。
だからこそ、この涙は止めるべきであり俺が慰めてやりたいが……今回はルードゥに譲ろう。あくまで今はルードゥの出番であり俺の出番ではないのだ。
「君が、そうなんだネ……本当にごめん!」
「……やだ、痛かった」
「それでも……ごめん、僕には謝ることしか出来ないんダ」
「知るか!」
あ、ゴブ吉君逃げちまった……。
「……ウィル、どうすればいいかナ?」
「どうするも何もねぇだろ、追え。もし村の外に出て何かに襲われたりしたら大変だ。俺は村長の家にでも行って暇潰してっから、存分にお守りやっとけ。それとも俺の力添えが必要か? 必要ならば遠慮なく言うがいい。ついていってやる、だが安易に助けを求めるな。俺も今回の件で学んだ……ただ助けるだけでは為にならんとな」
「……分かっタ。助けは必要ない、行ってくる」
急ぎその場から駆け出すルードゥ。
「おう。それじゃ、俺はこれで失礼しますね」
ルードゥに続き俺も退散しようとするが、
「はい、ゴブ蔵さん! マンティスはいなくなってので、出てきてください。ウィリアムさんに、話があるのでしょう?」
引きとめられた。
俺に話? 一体なんだろう……若干身構えてゴブ蔵さんを待つ。
「……ウィリアム、お前は人間にしては優しい奴だ。暇な時にでも顔を出せ、飯ぐらいは食わせてやる」
「はい、という訳でウィリアムさん。私も、ゴブ蔵さんも、貴方であれば歓迎しますので、何時でもいらしてください。ホント、貴方にような人間ばかりであれば、我々も人間と争う必要などないのですが……」
……悩んでいるのだな。
ふ、これは俺様の出番だな!
「ぬあーはっはっは! この偉大なるウィリアム様に任せておくがよいのだ。お前達のコトは必ずこの俺様が守ってやる! 俺様は敵対者には基本的に容赦ないが、家族と友達には優しく寛大だ!」
「あらあら……ウフフ、それは有難い限りです。宜しく御願い致しますね? ウィリアムさん」
「うむ、任せておくがよいのだッ! しかし……人間と魔物達の間に出来た壁を取り払うコトは出来ないかもしれない。不甲斐無い俺様を許してくれ」
「いやいや、許すも何もない。謝らないでくれ……俺達が困ってしまう」
「そうか?」
「そうだ」
「そうです」
「ふむ……分かった。では人間と魔物の仲を取り持つ役、頑張ってみるのだ! でも約束は出来ないから期待はあまりしないで欲しいのだ。
俺様一人が頑張ってどうにかなる問題なら幾らでも手伝ってやるが、他の者の協力が必須となってはな」
「えぇ、いつかその夢が叶うことをお待ちしています。ね? ゴブ蔵さん」
「おう、ゴブ奈! ウィリアム、程々に頑張れ!」
「うむ、やれる限りのコトをやってみるのだ。所で……見た所ゴブ吉君の傷はそこまで酷くなかったようだが、何故あのような態度を?」
少し、自分の中で引っかかっていた部分を聞いてみた。
傷付けられたんだから怒るのは当然だ。しかし、そこまで酷い傷は見受けられなかった……正直、そこまで怒る必要があるのか? と思ってしまう。
子を持った事がない故の疑問かもしれないが……。
「そりゃ、治してもらったんだから無くて当然だ。酷い怪我だったぜ……? 当時はな」
「……成程な。む、であれば帰らせるだけってのは甘くないか? そりゃアンタがルードゥを殺そうとすれば俺も止めたが」
「実を言うとな、ゴブ吉の奴俺達が寝てる時勝手に抜け出しやがったんだよ。んで、起きた時にはボロボロだった……だから、ゴブ吉自身も、俺も悪いんじゃねぇかって思ってな。それに、ゴブ吉は雄だ。いつかは大きな怪我をするだろう……そう考えると、あのマンティスだけが悪いんじゃねぇんじゃねぇのか? とか。だからって子を傷つけられたのに黙ってんのか? とか。まぁ色々と、俺自身まだ整理がついてねぇんだよ」
「……そうか。まぁ分かった、ゴブ吉君のことは任せろ。ルードゥにはあぁ言ったが最初からついていくつもりだったんでな」
「あぁ、頼んだぜ? ウィリアム」
「おう、任せとけ!」
さて、これが良い話になるのか……それとも悪い話で終わっちまうのか。
ルードゥ、全てはお前の行動次第だ。俺は、影から見守るとするぜ。
村長には……もうちょっと待ってもらうコトにしよう。
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