或る学級委員長の日常

山本正純

シーズン1

あの空のように蒼かった貴方

 綺麗に整理整頓された自室の本棚の前で、椎葉流紀は唸った。


 先程、学校の宿題が終わり、壁時計を見ると、午後9時50分。

 いつも見ているドラマが始まるまで10分もあるのだ。


 このままリビングでテレビの前でドラマが始まるまで待つのも悪くないが、少しもったいない気もする。

 そう思いかけた時、流紀の目に1冊の本が映った。


「あの空のように蒼かった貴方/大臣」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054889457762


 恋愛やラブコメといったジャンルの本が大半を占める本棚の中で、最初に目に付いたのがこの作品だった。


 青空をモチーフにした綺麗な表紙が気に入り、思わずジャケ買いしてしまったことを思い出しながら、気になった文庫本を手に取る。


 表紙から視線を帯に書かれたキャッチコピーに移す。


 どうか貴方の上の空が、いつも蒼く晴れ渡っていますように


 こんな美しさを感じ取られるキャッチコピーを読んだ後で、流紀は本を裏返し背表紙に目を通す。

 そんな彼女は思わず、目を丸くした。あらすじが載っているはずの背表紙は真っ白。

 読むまでどんな内容なのかが分からない。そう理解した流紀は、問題の小説を手に持ち、リビングに向かった。


 触り心地の良い紙質の表紙を触りながら、誰もいない部屋の中にあるテレビのスイッチを付ける。

 そして、CMを垂れ流しにしながら、気になった文庫本のページをめくった。


 冒頭の表現力が素晴らしいと思いながら、読み進めたら、謎に包まれた小説の全貌が見えてくる。


 転校生の女の子が図書委員の主人公に、「蒼い空がキレイな本」を探すよう依頼するところから物語が始まる。

 さらに、午後5時ピッタリに公衆電話を鳴らす主人公の相談相手の謎も浮上して、続きが気になった流紀は、文字を目で追う。

 続きを読ませる魅力がこの作品にはあると感じ取っていると、テレビから俳優の声が聞こえてきた。


 時刻は午後10時。

 ページにしおりを挟み、文庫本を閉じた流紀は、CM中に続きを読みたいと思いながら、テレビドラマを見始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る