【乙乙】乙女ゲームに転生したので乙女ゲームを作ってみた件
くら桐
第1話 序
「……
資本主義『日本』の上澄み世帯の子息令嬢が通う由緒正しき学園のカフェテリアの中、いまだ生徒がひしめく昼下がりのこと。
二人の男女が半熟とろとろの卵の上に特製ミートソースがかかったオムライスを口にいっぱい頬張ったタイミングで女生徒に話しかけていた。
少し大きいくらいのイケメンボイスに周りの群集の視線は集中線の如し。
むしろ自分達に向けられる照明とでも思っているのか、スプーンを咥えたままの女生徒が居心地悪そうに身じろぐのとは対照的に恍惚とも言える笑顔で話し始めた
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糸帛平良……スプーンを咥えた女生徒。自殺癖のあるメンヘラ。本作における主人公ポジション。
ヒロイン……月福玄に庇われる美少女。澱み世帯からの中途編入生。平良がなぜかヒロイン以外の名前に聞こえないため仮称。
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「……特に何もありませんが」
「そんなわけないでしょう!」
咀嚼するのをたっぷり待ってもらい、かろうじて出せた言葉を新たな甲高い声が遮った。
と同時にバンッと叩きつけられた書類から食べかけのオムライスをスレスレだが助けられたことに安堵する平良。
いつの間にやら背後に筋骨隆々の男生徒まで威圧ましましで控えており逃げ場はなさそうであった。
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ばさばさばさ!
目の前に書類がどんどん広がっていく。遠ざかっていく食べかけのオムライスに名残惜しい視線を投げることしか出来ない。
「どこを見ているのです! 糸帛君! 君が見なくてはいけないのはこの証拠書類だ!」
「……文字だけで証拠書類と言われましても」
「ちっ。写真や映像は出鱈目の奴がいずれ持ってくるはずだ。だがこれだけでも十分だろう!」
「君が『ヒロイン』さんに影で行ってきた陰湿ないじめの目撃証言と状況証拠だよ」
「言い逃れは許さない」
背後の無口筋肉の竹肋が喋った事に内心驚く。普段の仏像然たる無言の威圧っぷりを考えるに、彼の役目は牽制だけと思っていたからだ。
王子様月福の方に庇われているヒロイン(平良にはなぜか名前が認識出来ない)は真っ青なんだか赤いんだかわからない顔色で冷や汗びっしりだ。
しきりに周りを気にしているように見える。
(ウソ)(やばい)(マジ?ホント?)など周りの遠巻きにしているギャラリーからさわさわとささやき声が次第に広がっていく。
カシャンカシャンと携帯機器のシャッター音がささやき声より無粋に目立っていた。
お金持ち学校だからといってマナーが良いとは限らないらしい。
それほどまでにこの場面がセンセーショナルだと言うことかもしれないが。
「やめろお前達! 撮影の許可などしていないぞ!」
眼鏡の金意がまわりの野次馬に一括する。
怒鳴るくらい煩わしいなら内々で突きつけてくればよろしいのに。
そんなこと思ったところでしょうがないので少しこの茶番に乗ることにした。
「『そんなの捏造です! 月福さんは……こっ婚約者である私のことを信じてくださらないのですか』」
「婚約者と言っても親の会社の絆を強化するための婚約だからね。次期会社を継ぐ身としては公平でなくてはならない」
婚約者と言いたくない意識が出てしまいヒヤッとしたが女優としては合格点ではなかろうか?
さっきまでの温度差など無視して話が進む状況に、ヒロインがぎょっとした顔でそれぞれの顔を凝視している。
「『……婚約者として見てはいないとおっしゃるのですか』」
「そうは言ってないだろう?……だがあくまで認めるつもりがないのであれば、次期社長婦人としてふさわしくないと婚約解消も視野に入れなければいけないだろうな」
「ぶはっ」「……ふふっ」(げほんごほん)
自分の台詞をさえぎるように失笑された月福は、なぜ周りが笑いをかみ殺してニヤついているのかわからないと言った風に視線を走らせる。
同じく唐突に場の空気がガラリと変わったことに戸惑う金意と竹肋。
事態をおそらく一番把握してるのかヒロインの顔は完全に赤くなっていた。
「もう無理だろこんなん! 笑うしかないって! だって完全にあの『乙女ゲーの再現』じゃん!」
その叫び声を皮切りにあたり一帯は爆笑に包まれていた。
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