紫の弱き灯
ネミ
1話 世界を照らす灯
世界を照らす光は世界を映す神なり――。
暗闇に脅えた過去は遠き昔の出来事で、唯一にして世界を照らし動物を導く神は、光で世界を照らす。
照らされた大地に植物が茂り、天を見上げる花々は、神の光を一心に受けんとする。
寒さに凍える事もなく、天より降り注ぐ暖かな光は、地上を明らかにしている。
闇に包まれた時代、人々は微かな光を頼りに、進むべき道を探した。
微かゆえに道は少なく選択など叶わなかった――が、今の世に示された道はなく、広い世界を隅々まで目視して選択できる。
照らされた世界は自由があふれている。
自由をはきちがえた者は無秩序の始まりと成りうる。
見える世界が広がるほど、人が共有する意思は軽んじられる。
物を知らぬが故に、間違いに気づかず、他者に依存できる。
物を知れば、間違いに気づき、他者に依存しがたい。
闇の中、微かな光にすがり、団結していた人々の姿は失われ、人々は争いを始めた。
光に陰りが見え、人々は闇の再来を恐れた。
闇を払う神聖な光を求め、人々の争いは激しくなり――戦で失われた神聖は数多い。
光を取り合い、争った末に、訪れた暗闇の時代は、残された光を大切に守る――と人々に誓わせた。
世界を広く照らした強い光は、なぜ陰りを見せたのか――至らせた力は闇の力か神の力か……。
闇に包まれた世界で世界を僅かに照らす神の神聖な光に人々は集まり団結する。
少年は眼に怪我を負い、世界を映す光を失った。
過酷な世界で、役立たずを生かす価値はない――と人々から見捨てられた少年が見る世界は光無き深淵。
仲間に呼びかけても返事はなく、孤独を実感させる静寂は、何でも良い――神でなくても――悪魔でも――救られるなら何でも――と願った少年は深淵の中に弱弱しく世界を照らす紫色の火を見つけた。
真っ暗でなければ見えぬほどに弱い火は少年に世界を見せた。
見える世界は暗く物の区別も難しかったが、紫の火が微かに照らす道を歩み、たどり着いた場所には、松明と思われる棒が落ちていた。
手に取った棒の先端をふよふよと浮かぶ火へ近づけると、強く燃え盛った火は、少年の世界を広げた。
多様な色はなく、紫色で構成された世界に違和感を抱きながらも、視界が開けた喜びに感動する少年は紫の炎に感謝した。
松明の先で元気に燃える炎で紫色に照らされた森を歩んでいると人々の声が聞こえた。
世界が見える今なら――と声の聞こえた方向へ駆け出した少年は、魔物と対峙する人々と出会った。
松明に灯る紫の炎を見た人々から、悪魔に魂を売った――と軽蔑され敵意を向けられた少年は、自分の縋っている炎が、神聖な神の光ではなく、悪魔の炎だと気づいた。
自分を救った炎が悪魔だと失念していた少年は、成人男性(人間)の半分と思われる身長と長く尖った耳を持つ魔物から、言葉はわからないが助けを求められている――と思った。
紫色で世界を少し照らす炎が意思を持ち何かを伝えようと形を作った――様に思えた少年は、紫色に光る炎の使い方が少しだけ見えた。
紫の炎に導かれた少年は、目前で魔物が差し出している棍棒を借りると、敵意を向ける人々へ体を向けて、松明の先で燃え盛る炎に棍棒を重ねた。
重ねられた木製の棍棒で紫の火は弱弱しく燃えている。
見た目に似合わず暖かさが感じられず、真逆な冷気を感じる少年は棍棒を構えた。
敵意の持ち主から殺気を感じた少年は、槍で突き刺す攻撃を避けると、攻撃の主へ松明を投げて怯ませた隙に暗闇へ身を隠した。
見失い神聖な光で照らそうにも、安全を確保する為に、捜索にまわせない弱い光では、闇に隠れた少年をとらえることはできなかった。
少年を探す者の足元に落ちていた松明で燃え盛る紫の炎が爆発し、巻き込まれた者を助けようと仲間たちが駆け寄った。
火力が強い松明で爆発を起こし、弱弱しく燃える紫の火を身体で隠しながら、魔物を連れて逃げ切った少年は、神聖なる光の根源〝唯一の神〟を信仰する人々と敵対する道を歩み始めた。
【色々な情報】
紫の火が見せる世界は魔物や目に障害を持つ少年へ神聖な光では見せられない情報も見せるが、常人に対しては間違った光景を見せることがある。
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