第二夜 論破
ざわざわと騒めく観衆に、何を勘違いしたのかふふんとふんぞり返るお馬鹿さん。何処から訂正していけばいいのかしら……?頭が痛いわ。自国の事でもないのに……。
「殿下、つまりは状況証拠もなく、目撃者もなくこのような調べを取られたと仰られますの……?」
小首を傾げて見せると、ふんっと、鼻を鳴らされる。あらまぁ…。このお馬鹿さんの頭の中に『礼儀』という二文字はあるのかしら?他人事ながら少し心配になって来るわ…。
「決まっているだろう。純粋なシャロルが言うのだ、間違いない!」
「成る程、ですが……、アリアさんにそれは出来ませんわ」
あきれつつ、そう言って首を振ると、お馬鹿さんは憤慨した。もう王子と呼ばなくても宜しいですわね?ここまでしでかす人は初めて見たわ。未だにわたくし達のことも分からないようですし……?
「何だと!? 証拠でもあるというのか?」
「はい、ございますわ」
「ほらないだろ……は?」
間抜けな表情のお馬鹿さんがおかしくて、クスクスと笑ってしまう。憤慨しているのは無視しておきましょう。いちいち付き合っていられないわ。さて……
「Rose・Crownの一員であったアリアさんは、わたくしの推薦でこの一年倭国の最高学府、月下院学園へ留学しておりましたもの。こちらの書類が証明ですわ」
「なっ……!」
お馬鹿さんは唖然として口をパクパクと動かす。隣のお嬢さんは恨めしげな顔をしてこちらを睨んでいらっしゃるけれど…。というか、婚約者の近況も把握していないの?これで良く王子でいられたものねぇ。なんだかこの国の民が哀れだわ。
「あっ、あの! わた、私が嘘をついているというんですか……?」
一生懸命意見していますっ!といった様子ですわね…。今日で成人なのですし、大人が恥ずかしくないのかしら…。
これなら我が国の十歳児の方がよほど礼儀を心得ているわね。まぁ何と言いますか、雰囲気的には頼りなげに見える方ですけれど……所詮は作りものだわ。胸を強調する仕草とか、一々わざとらしいんですもの。
そんなことはおくびにも出さずに、語尾を跳ね上げて答える。
「まぁ……!逆に聞かせて頂きますけれど、この一年この学園でアリアさんと顔を合わせた事がある方はいて……?いらっしゃるなら仰って下さいな?」
扇を顔の横に持ってきて、首を傾げて微笑んで見せると、赤毛の少女が進み出て来た。あらこの子……。アリアちゃんのお友達では無かったかしら?
「お久しゅうございます輝夜様。僭越ながら一言証言させて頂いても?」
気の強そうな彼女に頷く。彼女は優雅にドレスを捌き、殿下たち四人の前に進み出た。うふふ、本物と偽物は比べ物にならないわねえ!
「わたくし、リオリア・ルティアと申します。わたくしの友人がアリア様の御友人で良くお食事などをご一緒させて頂いておりましたが、この一年はお目に掛かった事もございませんわ」
あぁ成る程。友人と言えばアリアちゃんの不利になるものね。敢えて友人の友人、知人と思わせる事で揺るぎ無い証拠にしているのだわ。リオリアちゃんもなかなかの策士ね。
「グッ…」
案の定息の詰まったお馬鹿さんを見据えて、うっそりと笑って見せる。すると今度はシャロル嬢…紛い物令嬢、長いから…阿呆さんにしておこうかしら、がまた胸を強調するかのように腕を組んで進み出てきた。取り巻きのお二人も。
「で、でも!私が虐められていたのは本当ですっ!皆さんアリア様の為にとか仰ってましたもんっ!」
あらそうなの?と目を瞬いてすっと周りを見回すと、何人かが青くなる。あらあら、うちの可愛い義妹に罪を擦りつけようだなんて…。
「お里が知れるな」
「玲様、お止めなさいまし」
ぼそりと呟いた玲様の言葉に、慌てて窘める。でも、どちらの意味かしら?まぁ、どちらでも構わないわ。結局未遂で終わりそうですし。アリアちゃんが傷つかないのが一番よ。
「酷いっ!そうやって、お兄さんまで私の事…」
うぅ…と泣き崩れる阿呆さんを取り巻きのお二人が慌てて宥める。こちらを睨むのもセットね。それにしても、玲様は貴女のお兄さんではなくてよ?すると沈黙していたお馬鹿さんが顔を真っ赤にしてフルフルと震え出す。あらあら、なまじ顔がいいだけに醜悪ね。
「貴様らっ!子爵とその妻の分際で…!私の最愛を侮辱するとは何事だっ!」
……。想定通りというべきか、失望するべきか…。反応に困るわねぇ。
「はぁ…元臣下の婿入り先くらい把握しておいてこそ王族と言うものですのに…」
「王族というにはずいぶん都合の良く貧相な頭をしているからね、これは」
わたくし、玲様の順に溜息を吐くと、一層四人は顔を赤くする。特にお馬鹿さん。それに側近ならばそれくらい把握しておいてやればよいものを…。この国の王も何をしているのでしょう?愚かではなかった筈よね?
「貴方達のご記憶にないようなので、もう一度名乗らせて頂きますわ。わたくしは倭国が東宮、日嗣の神子たる、月天宮 輝夜にございます。今回の滞在に関しては連絡が行っていらっしゃらなかったようですわね…」
「私はその夫、次期皇配、月天宮 玲です。妻共々、お見知り置きを」
知っていると思って敢えて名乗らなかったのだけれど、今回ばかりは功を奏した、かしら…。お馬鹿さんと奥の二人…取り巻きsは目に見えて青くなり、震え出す。
そのあたりの知識はあるみたい。でも、阿呆さんの方は何の事?とでも言いだしそうなご様子ね。学園側はもう崩れ落ちそうなほど真っ青。まさか国賓が来るとは思っていなかったのでしょうね。
あら、今度は下を向いてぶるぶると震え出したわね。
「そ、そうならば早く名乗っておけ!シュナイゼル、貴様も知らせておけばいいだろう」
はい…?何を仰っているの?
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