ある主婦の善意

 私は、昔から人より運動が苦手だった。

 嫌いだった、という方が正しいかも知れない。小さな頃から身体を動かすよりも、本を読む方が好きだった。鉄棒の逆上がりは勿論出来ないし、縄跳びの二重跳びも出来ない。駆けっこは何時もビリ。そういう子供だった。

 そしてそんな私を、男子達はノロマだとか、デブだとか、よく言ってきた。

 それは別にどうでも良かった。確かに太っていたし、運動音痴だったから、どれも嘘ではない。だから言われても仕方ないと思う。

 でも、それを理由にして仲間外れにされるのはショックだった。

 何もドッチボールとかリレーのチームに入れてくれなんて言ってない。準備運動すら、ノロマが移るとかなんとか言って、私を除け者にした。校外学習の班にすら入れてもらえなかったし、入ったところでノロマの意見なんて聞く価値もないとばかりに無視された。先生は口では窘めていたけど、だけど一時窘めるだけで、結局学校を卒業するまで何も変わらなかった。

 事実を言うのは良い。運動で同じチームになりたくない気持ちは分かる。だけどそれを理由に、関係ない事柄まで仲間外れにするのは虐めだと思う。

 そして私の親は、この話に対し、虐められるのが嫌なら鍛えて見返してやれと言ってきた。

 多分、あの時が一番ショックだった。悪いのはお前だと言われたように感じた。私は本が好きで、運動が嫌いで……得意なものが違うだけだったのに。勉強では何時も学年トップだったのに。

 勉強を頑張っても、親は私を認めてくれなかった。




 デザイナーベイビー。

 もう三十年ぐらい前に合法化されたけど、未だ世間の目は冷ややかだ。私の両親も、こんなものをする奴は本当の親じゃないとか言っている。

 だけど私は、自分の子供にこれを施す事にした。

 頭が良くなって欲しいとは言わない。

 顔が良くなって欲しいとは言わない。

 顔が良くなかった私が、学校で赤点ばかり取っていたけど優しかった彼と結婚したように、そんなものはどうでも良いのだから。

 でも、丈夫で、人並みに優れた運動の出来る身体で産まれてほしい。私みたいに、虐められないように。

 これを私のエゴと言う人がいる。自分の悔しさを子供に押し付け、復讐しようとしているという人がいる。

 どうせそいつらは、私の子供が虐められていても助けてはくれない。

 私の子供を守れるのは、私しかいない。ううん、勿論旦那も守ってくれると思うけど……虐められないようにするのも、親の努めだと思う。運動音痴が虐められるのなら、運動の出来る子供として産んであげたい。

 愛する我が子の人生に、不幸なんてあってほしくないのだから――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る