デザイン

 僕の右腕が不用意に止まる。「あなたの未来に私はいる?」なんて、彼女が突然聞いてくるからだ。

 長い髪を素肌に滑らせ、少し俯いたまま彼女は続ける。


「朝起きたらね、コーヒーを入れるの」

「いいね、コーヒー」

「お腹がびっくりしないように、たっぷりのミルクでカフェラテにするのよ」


 落ち着きを取り戻した僕は、紙をめくり、二枚目のデッサンを始める。彼女はベッドに座ったまま、どこでもない方向を見ながらからからと笑う。


「ミルクはお気に召さなかった?」

「うちはブラックだからね」

少し睨んで彼女が言う。

「うちだなんて言わないで。置いてきたのに」


 そうだ。僕らはただここにいて、ただ明日を待っている。

 その刹那的な美しさを、僕はひたすら描き写す。


「あなたと私の間には境界線がある」

彼女がまた話だし、僕は心の中で頷く。

「あなたはそこを越えようとは思っていない」

その通りだと思う。

「そして、その関係の魅力に取り憑かれている」

口元をいじっていた彼女の指が、身体を這っていく。

「あなたも、私も、ね」


 彼女の目が艶かしく僕を捉える。

 一体この部屋でもう何度、互いの視線を絡ませただろう。

 熱い吐息に興奮し、抱き合うことなく果てただろう。


 なんの未来図も描こうとしない僕たちは、今しかない美しさを互いの心に埋め込んで、いつしか「うち」に帰るだろう。

 僕の未来に君はいない。

 ただ今の君は、僕の心に永遠に残り続ける。

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