第8話 どの世代が本を買ってくれますか?

 本たちの視線を浴びながら、シニア向けの投資商品解説本は続けた。


「本に一番お金を落としてくれる層、それはネットにうとく、可処分時間の多い老人たちだ。彼らは、情報といえば、紙の媒体、つまり新聞と本、あるいはテレビかという二択の認識しかない。

 故に、娯楽なら書籍か雑誌、あるいはテレビのバラエティ番組、情報取得なら新聞かテレビのニュースという選択になるが、テレビのバラエティ番組は若者向けに作られていて、しかもテンポが速く、話に付いて行けない。必然的に彼らにとっての娯楽は書籍、雑誌ということになる」


「でも、なんだかんだ言って、奴ら、先が短かくね?」

 遠慮のない、ストリート系ファッション雑誌の問いかけ。


 し――――――ん。

 沈黙が書店を覆う。


 やがて、ぼそぼそとささやき声が広がる。

「確かにねー……」

「長い目でみたら、若い世代や子供たちが本屋に親しんでくれたほうが……」


「そう! 彼からこそ、未来の有料顧客なのだよ!」

 ぴっ!と人差し指を立てて、叫んだのはライトノベル。


「いいか、学生には社会人と違って、たっぷりと時間がある。持てあますくらいにっ! それに参考書やドリルなどを買うために本屋に足を向ける必然性もあるっ!

 まさに、学生こそが本屋を救う存在だ!」


「でも、学生ってみんな、漫画も小説も、見てない?」

「そっちのが割安だしねー」

「わざわざ行かなくても家で探して読めるから便利だし」

「可処分所得に限界がある人間を対象にしても儲からないぞ」

 雑誌コーナーの情報誌と日経系ビジネス雑誌が反論。


「いいや、大事なのは未来への投資だ!」

 負けじと言い返すライトノベル。


「今、お金がないからつぶれてんだよ! 今でしょ! 今!」

 大手予備校が製作協力した参考書が叫ぶ。


「第2話に戻る。って、これはタイムリープ展開ではないかぁあああ」

 SF小説が叫ぶが、すぐに周りから「お前、もういいから」と突っ込まれる。


 紛糾する店内。

 そこへ響く、神のごとき声。


「己の役割について考えろ」

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