硝煙の勇者達
COTOKITI
第1話 狂い切った歴史
我々亜人はかつて、人類とは常に全ての力において均衡を保っていた。
だが何故我々は敗北した?
考えられる原因は何者か、もしくは何かによって我々と人類の力の均衡を失ったのだと考えられる。
ならば我々がしなければならない事はただ一つ、
過去に戻り、その何かか何者かによって滅茶苦茶にされたふざけた歴史を修正する事だ。
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1949年 12月 26日
現在、亜人と親亜人派の人間達によって構成された亜人同盟軍は多くの亜人が捕えられている西アジアの西端の国、ターリア占領の為に幾つかの師団を動かしている。
だが、ターリアを堕とすには首都のグレティアを陥落させる必要があるのだが、そこに行き着くまでに無数の塹壕、砲兵陣地、地雷原、そしてグレティアを守る15個師団相当の兵士を打ち破らなければならない。
空軍はまあまあ善戦しているという知らせは来ているが、問題は陸軍である。
戦いは既に終盤。 雪が降り積もる大地に葉の葉脈の様に張り巡らされた塹壕、その前方に広がる地平線は数日前は敵味方の砲弾を用いた雪合戦で一面焦土と化していたが、雪が降り積もったお陰でクリスマスにはピッタリな雪景色だ。
ただ、こんな場所でクリスマスパーティでもしようものならもれなくクリスマスプレゼントという名の無数の砲弾と機関銃座の制圧射撃を喰らうことになるが。
塹壕の中にいる兵士達の性別種族は様々だ。
エルフにリザードマンにオークにオーガ、そしてゴブリン。
ゴブリンは本などで見るような小さな体格ではなく、人間らしい八頭身の身体に人間らしい顔付き、言語や性格なども人間と大して変わらない。
亜人同盟軍の兵士はゴブリンの割合が高いのだが、ここの塹壕でも兵士の大半はゴブリンが締めている。
そんなゴブリン達は緑色の肌を手首から先と首から上以外は野戦服で覆い隠している。
親亜人派諸国の軍が使用していた銃、Kar98やSTG44、三八式歩兵銃、百式短機関銃、MP40、MG42、など様々な武器を手に持った彼らは塹壕の中で突撃の合図をじっと待っていた。
目の前にはグレティアを守る最後の砦である巨大な要塞がある。
まるで数百のコンクリートトーチカを合体させたような見た目のそれは無数の機関銃、火砲を壁の隙間や上からこちらに指向している。
かれこれ4時間は経ち、とある一人の兵士が眠りこけようとし始めると、何重にも重なった砲声が彼を叩き起した。
彼は飛び起きて急いで要塞の方を振り向くと、壁が砲撃を受けたのか瓦礫と粉塵が舞っている。
「おぉう……」
その光景を呆然と見つめていると、今度は彼らの頭上を大きな影が通った。
「重戦車大隊……エレド隊か!」
塹壕を踏み越えて行くのは千切れた鎖を巻き付けた先の尖った十字という特徴的なデカールで飾り付けたティーガーE型とティーガーIIで構成された何十両もの戦車大隊だった。
エレド隊と言うのは過去にあった東ヨーロッパでの戦いで2個大隊相当の敵戦車部隊を壊滅させ、撃退した事でその名は亜人同盟軍中に広がっている。
ちなみにエレド隊は戦車に乗れる者の体型の都合もあって戦車兵はエルフのみである。(エレド隊のエレドは大隊長のメセラ・エレドに因んでいる)
勿論、要塞も黙ってただ砲撃の的になる筈もなく、火砲で反撃してくる。
それに怯まずエレド隊は隊形を乱さずに全速力で進み続ける。
エレド隊が塹壕を越えてから暫く経つと、塹壕に配置されている将校がけたたましく笛を鳴らした。
すなわち突撃の合図である。
「進めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
将校の怒鳴り声と同時に塹壕から這い上がると前方の要塞を目指して突撃して行った。
そして、今までこちらに指向していた火砲や機関銃が発砲を開始した。
銃弾が雨のように降り注ぎ、彼の周りにいた兵士達は次々と倒れていく。
彼は死を覚悟しながら叫び、ひたすらに走り続けた。
上空から降ってきた砲弾が兵士達の頭上に飛来すると突然爆発し、破片に巻き込まれた数人の兵士が蜂の巣になった。
「榴散弾かよ畜生!」
ただの榴弾や対戦車砲の徹甲弾に混じって飛んでくる榴散弾は一瞬にして兵士を薙ぎ倒し、血の海を作った。
だが、砲弾の破片から守ってくれる存在がいた。
それは全身に分厚い鋼鉄の装甲を纏ったオークである。
オーク達は本来なら二脚を展開して使用するはずの軽機関銃や重機関銃を腰に構えて弾をばら撒きながら他の歩兵の盾となって突撃している。
戦車とその間を埋める様に配置されたオークとオークの3倍の大きさはあるオーガ。
その後ろに歩兵がいた。
彼は周囲から砲弾の爆発音に混じって聴こえてくる仲間達の断末魔を耳に入れないようにと敵兵から鹵獲したPPSh-41を両手に握り締め、前だけを見て走り続けた。
「ヴェクティル!!無事か!?」
「まだかすり傷だけだ!!」
彼がヴェクティルと呼んだゴブリンの兵士は彼に気付くと左手を振って無事な事を示した、だが、それが彼の最期の姿だった。
ヴェクティルが手を振った直後、身体中に風穴が開き、血を撒き散らしながら仰向けに倒れた。
敵の榴散弾が頭上からモロに直撃したのだ。
「……ヴェク……ティル……」
その様子を見た彼は足を止め、呆然とヴェクティルだった肉塊を見つめた。
ここにいた全員が自分の命を守るので精一杯で彼に声を掛ける者は一人を除いていなかった。
「ベルクト伍長、ここで止まれば砲撃と機銃の的となります。 行きましょう」
こんな戦場の真っ只中で平静を失わず、落ち着いた口調で話し掛けてきたのは彼、ライザ・ベルクト伍長の部下であるゲド・ラネル上等兵だ。
「……あぁ、分かった……。」
止めた足を再び動かし、ラネルと共に仲間の元へと戻った。
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