キレイ好きになったきっかけ

 服のまま、俺はパイロンに寸法を測られる。

「何をするんだ?」


「爽慈郎に、モンスターと互角に戦える力をあげる」


 俺の許可もなしに、パイロンが俺のバッグから作業着を取り出した。


 その後、パイロンが作業服に手をかざす。


「魔力を作業服に注ぎ込んで、無敵の鎧に変化させるんだよ」


 オレンジの塗装に、魔法の文字らしき模様が所狭しと描かれていく。


「あとは、これをこの釜の中に入れて、と」


 作業服は、異様な色をした釜の中にドボンと沈んでいった。


「大丈夫なのか?」

「さてと、最後の仕上げに取りかかろっと」


 はぐらかしやがったな。


 用意されたのは、パイロンの鎧と同じ素材でできた、禍々しい鎧である。


「これを、大釜に投入」

 泡立つ緑色の液体の中に、二人して分解した鎧をドンドンくべていく。


 全部入れ終わると、パイロンが釜を二、三度掻き混ぜた。


「あと一時間くらいで、完成だよ」


 しばらく手持ちぶさたになる。


 他にすることがない。


 せいぜい掃除道具の手入れくらいだ。


「ねえ、ちょっと聞いてもいいかな?」

「答えられる類の物ならな」


「じゃあ、どうして、爽慈郎は、片付けとか掃除とかが好きになったの?」


 よく聞かれる質問だな。


「簡単だ。俺の初恋の人が、掃除の先生だったんだ。それまで、俺は片付けのできない人間だった」


「でも、爽慈郎の両親って、プロの掃除屋さんだよね?」


 父親が掃除のプロで経営者、母親が片付けのカリスマ主婦として、世間では知られている。


 だが、俺自身は片づけも掃除も一切できない子供だった。どうして両親が掃除や片づけに拘るのかさえよく分からず、部屋を綺麗にする大事さもよく分からないガキで。


 何より、片づけようと思ったらまず真っ先に親が片づけてしまうから、ノウハウだけはあったが、実践が足りていない子供だった。


「そこに、母親の部下の女性がやってきた。その人にくっついてたら、自然と掃除や片付けができるようになった」



 実に現金なガキだったのである。



「俺が九歳の頃、その人は嫁に行ってしまった。相手は大手の清掃会社の社長だ」


 突然の別れに、俺はまた呆然とした日々を送るようになった。


「ショックだったな。クラスで一番かわいい女子に『カレシのユニフォームを洗ってくれ』って頼まれても、全然平気で洗うくらいだったのに」


 そんな俺の目を覚まさせてくれたのは、教わった掃除や片付けのテクが染みついた自分の部屋だ。

  

 もう二度と散らかさない技術が詰まった部屋を見て、俺が部屋を綺麗にしている限り、あの人はここにいると分かった。

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