鬼祓い外伝 藤倉彩加の純情

鷹野友紀

第1話  事務所の名前は・・・。

 

 


 藤倉一弥が近郊の中核都市の大学に入学したのは今年の春だった。

 それに合わせるように雨宮静奈あまみやしずなが自分の事務所を中核都市に移転させた。

 それがどのような影響を与えるのか、最初、藤倉一弥ふじくらかずやは解っていなかったが、それは直ぐに影響をもたらせた。

 人手が足りないからとバイトを頼まれたのだ。

 一弥かずやは快く引き受けた。


 ある休日、静奈しずなから連絡があり本条市全体を見渡せる場所を聞かれたので、一弥は高見台に案内した。

 この本条市という都市は地方の中核都市の衛星都市と呼ばれていた。

 最寄りの駅から通勤時間は30分ほど。

 ベットタウンと言えば少しはわかりやすいだろうか。

 だが、あれ以来、一弥は一人暮らしをしていた。

 昨年の雨宮での経験が生きていたようだ。

 あれ以来、藤倉一弥の鬼祓い《おにばらい》の能力は戻っていた。


「一弥君。この辺りは春になると美しいそうだね」

 雨宮静柰は小高い丘の上から街を望んでいた。

「ええ、この街は春だけ名所が増えますからね」

 隣にいる藤倉一弥は微笑みながら答える。

 そこから本条市ほんじょうは一望できた。

「それなのに時期を逸脱してしまったようだ。やはり玲奈れいなのいう通り移転を早めれば良かった」

「それは仕方がないですね。でもまた季節は巡ってきますよ」

「うむ。だが、必ず季節が巡ってくるとは限らないぞ」

「どういう事ですか?」

「例えば、私が死ぬかも知れないし。本条市の桜がすべて枯れてしまうかも知れない。それでも季節はやってくるが、その時の一期一会という瞬間は二度と戻ってこない。ようは一瞬は一瞬であって繰り返しはしないんだ」

「その答は正しいですね。今まさに、この一瞬の瞬間とは二度と繰り返しせない一期一会ですからね」

「その通りだ。では命名式に行くとしよう」

「はい」

 二人は来た道を戻っていった。

 そして彼らが乗り込んだ深紅のビートルガブリオレは新緑の季節の中を駆け抜けていった。

 二人がいた場所からは藤倉神社のある鳴神山なるかみさんが見えた。

 其所には此岸橋しがんばしという半分だけ架けられた木造の橋があった。

 下には深い谷が見える。

 地表まで数十メートルあり、下を何本もの大きな柱が支えていた。

 もともと平安時代に作られたモノだが、今は江戸時代の復元であった。

 (40年ほど前に重要文化財に認定されている)

 

 此処は春の季節ともなれば沢山の人間が県外からもやってくる。

 そんな桜の名所だった。 

 

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