『スプートニクの恋人』
村上春樹でおもいだすのが、『スプートニクの恋人』著:村上春樹である。
西暦一九五七年、旧ソ連が宇宙開発の為に世界初の宇宙飛行犬として送り出した。犬の名は――ライカ。厳しい訓練を受け、スプートニク二号に乗せられたライカは、過熱とストレスにより数時間で亡くなったという。だが、宇宙のとある星で生きていた元宇宙犬ライカは繁殖に成功し、人間どもを皆殺して地球を血で赤く染めてやろうと復讐しようとする『ライカの星』について、あーでもないこーでもないと、復讐が生きる原動力となっていたが、生きたい理由はべつにあるんだよという漫画……ではない。
物語の舞台は、東京都国立市。
小学校の教師をしている主人公の「ぼく」と、同じ大学の後輩で小説家を志す「すみれ」、そして十七歳年上で金持ちの実業家、韓国籍の既婚者「ミュウ」という女性との、ミステリアスなラブストーリーらしい……けれども、ミュウ、すみれ、ぼくの順番で喪失していく物語だ。
すみれとミュウは優雅にヨーロッパ旅行をし、ギリシアでヴァカンスを過ごしているころ。ミュウからぼくに国際電話がかかり、すみれが大変なことになったからすぐに来てといわれて向かうも、すみれは失踪してしまったという。
打ち明けられたのは、すみれがミュウに初恋して求め、拒まなかったがこたえられなかったこと。ミュウは十年以上昔に観覧車に乗っていたらもう一人の自分を観るという恐怖体験をして以来、白髪となりだれともできなくなった。
そんな話を聞かされただけで、すみれは戻らず、ぼくは帰国する……。
村上春樹の初読みである。
文庫本ではなく、ハードカバーで購入した。
何事も自分のものにするには「身銭を切れ」といわれるように、当時はよく本を買って読んでいた。それだけ、いまよりも本の価値があったのだろう。
ハルキニストには申し訳ないが、村上春樹の小説はあまり好かない。それ以前に、ろくに読んでいないのだから、好き嫌いを論ずる以前の話だ。
食わず嫌いを論ずるよりも、まず食べてみなければわからない。ということで、どれでもいいから選んで手にしたのが本作。理由は、他の本よりも薄そうだったから。
前半、男女の恋愛ものかとおもって読み進めれば後半、ヒロインはどこかへ行ってしまい、ウヤムヤでスッキリしない感じに終わる。
聞くところによれば、村上作品はどれもだいたいこんな感じだと教えられた。(教えてくれた人の感想)以後、彼の作品は読まなくなった。
しかも、今回のことをきっかけにして本購入を差し控え、図書館利用が増えていく転換点となった。「身銭を切るには軽率な行動をとっていけない」という教訓になったのである。
村上春樹から学んだ点は、クイズ問題のような比喩表現である。
比喩はわかりやすく説明するものだけれども、ちょっと凝った比喩を使うと、むしろわかりにくくしてしまうことのほうが多い。
かといって、わかり易い表現は凡庸で、すでに手垢が付きまくった先人たちが生み出した表現であることが多く、作品を陳腐にしてしまう可能性がある。
作家ならば「雨はしとしと」「雪はしんしん」と降る、と比喩表現してはいけない。喩表にこそ、作家の個性が現れるからだ。
そのことを教えてくれる、そんな作品の一つである。
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