第62話 初めての大喧嘩

「エソワ学校の人ですね。制服が可愛いですね。」

 その場を取りつくろおうとしたレイリアの声にシャラーナは、生真面目に四人に礼を言って挨拶をした。

 確かにエソワ学校の制服は少女達の心をくすぐる。焦げ茶色とベージュと白の色合いは地味な制服だが、上品でお嬢様達が着るに相応しいようにできている。

 シャラーナはその制服の上にカートン家の者を示す藍色の腕章をつけていた。その腕章の裏には一人一人の名前が刺繍ししゅうされていて、よそ者が勝手に入り込んだり、成りすましができないようになっている。

 怒っているような様子のシャラーナに、リリナは困惑した。

「絵の事なら、私達は承諾しょうだくしたんです。」

 説明しようと口を開きかけたランバダを手で制し、患者であるエイグが説明した。

「…そうですか。しかし、無理なさっていらっしゃらなければよろしいのですが。」

 むずかしい顔のシャラーナの言葉に四人は顔を見合わせた。

「エソワ学校の者だからと、ご遠慮なさっているかもしれないと思いましたので。」

 続いたシャラーナの発言を理解したホルが否定した。相手がお嬢様だから、遠慮えんりょしたわけではない。

「別にそういう訳ではありません。絵を見せて頂きました。大変お上手でおどろきましたが、悪い気はしませんでした。」

 難しい顔のシャラーナは、納得したわけではなさそうだがうなずいた。

「そうですか。分かりました。皆様の寛大かんだいなお心に感謝致します。そして、ご歓談中にご迷惑をお掛け致しましたことをお詫び申し上げます。それでは失礼致します。」

 シャラーナが謝罪する時、リリナに鋭い視線を送って来たので、急いでリリナも一緒に頭を下げた。

 シャラーナがきびすを返して歩き始めたので、リリナはもう一度、四人に会釈えしゃくして慌てて後を追った。

「ねえ、シャラーナ、怒っているの?」

 少ししてからリリナはたずねた。しかし、シャラーナは黙ったまま歩き続ける。歩みを止めないシャラーナをリリナは追い、とうとうシャラーナの進路に立ちふさがった。

「シャラーナ、どうしたの、怒っているんでしょう。ちゃんと話して。」

「もう少し、行ってからにしましょう。」

「シャラーナったら、ここで話して。」

 リリナが中庭の小道をふさいで、口調を強くして言うと、シャラーナはため息をついた。

「声が向こうに聞こえるわ。」

 なんでそんな事も分からないの、と言われている気がしてリリナも気分が悪くなった。

「聞こえたっていいじゃない。ここで言ったらいいわ。」

「自己中心的ね。あなたが良くても患者さんに聞こえたらだめなの。」

 それはもっともな事なのでリリナも黙ったが、腹立たしさが募って来てしまう。そこから十歩も行かないうちに、とうとうリリナは言ってしまった。

「何よ、あなただって、小さい声で言ったらいいじゃない。わたくしだけが悪いと言うの?確かにわたくしが、断りもなく絵を描いたのは悪いかもしれないけれど、でも、相手の方は別にいいって許して下さったわ。

 向こうが許しているのに、なぜ、あなたが怒るの?おかしいわ。あなたに怒る権限はないはずだわ…!」

 リリナの言い分にようやくシャラーナは歩みを止め、ムッとした表情でリリナを見据えた。シャラーナのにらみにリリナは少しひるんだが、怒っているので睨み返した。

「あなた、何か勘違かんちがいしているのではなくて?」

 怒りを務めて抑えているのだろうと思われるシャラーナの声は、いつもより低くて怖い。

「ここは、カートン家の敷地ちきちよ。しかも、あなたに描いて良いと言ったのは中庭の風景であって、患者さんやお見舞いに来た人達ではないわ。」

 リリナはあきれた。さっきから何度も説明しているのに…!なんで分からないのだろうと思う。今までリリナは、どこで何をやろうと誰にも邪魔される事なく、非難される事もなかった。

 本人が自覚しないままに、八大貴族の令嬢れいじょうだという事で、本来なら基本的に許されない事も規則を曲げて許されてきた経緯があり、それに気がついた事はほとんどなかった。ごくたまに気がついたとしても、たいしたことではないと思い、記憶にもとどまっていなかった。

 だから、シャラーナにカートン家の敷地だ、と言われても全く何も思わず、リリナの頭に言葉として留まらなかった。彼女の中では過ちは承諾を得ずに絵を描いてしまった事だけで、カートン家の許しを得ていない事が過ちになるとは考えもしていない。

「何を言っているの?さっきから、相手の方に許してもらったって、何度も言っているじゃない…!」

「違う…!あなたはやっぱり何にも分かっていない!相手が許す、許さないの問題じゃないの…!確かに許されなかったらもっと問題だけど、カートン家の許可なく、勝手に患者さんと見舞いに来た人を描いた、そのこと自体が問題だと言っているの!」

 シャラーナのきびしい声にリリナはびっくりしてしまった。なぜ、カートン家の許しが必要なのか、全く理解できない。そして、シャラーナがその事を非常に重大な事だと受け止め、怒っているのも理解できなかった。

「あなた、何を言っているの?」

 リリナは困惑こんわくしつつも、怒りがき上がって来る。なぜ、リリナがカートン家の決まりに従わなければならないのか、分からない。わけの分からない事で生まれて初めて叱責しっせきされて、しかも、叱責したのは母のファナではなく、同級生で身分は平民のシャラーナに厳しくしかられて、リリナは激しい怒りに体をふるわせた。

「言っている意味が分からないわ…!なんでそんなに大げさなの…!だったら、絵を描く時、いつでもどの人にも許可を得て描けって言うの…!見ず知らずの人、全員に許可を得てから描けって言うの?そんなの無理だわ!絵を描くなっていうの、あなたは…!」

「馬鹿ね…!カートン家でって、さっきから言ってるでしょう!」

 リリナは生まれて初めて、他人から「馬鹿」とののしられ、おどろきすぎて言葉が出てこない。その驚愕きょうがくが過ぎ去った後は、腹の底から湧き上がってくるような怒りだった。リリナは八大貴族のクユゼル家の娘なのだ。その自分に対して、馬鹿と罵るなどありえない。ファナにもライナにも言われた事がない。

「ば、馬鹿なんて、言わなくても……。」

 ようやく出した声は、かすれて情けないほどに震えていた。

「とにかく、その絵、わたくしに渡して頂くわ。」

 しかし、シャラーナはリリナの言葉を最後まで待たずにさえぎり、自分の要求を出して来た。シャラーナが手を出してくるので、リリナは画帳を抱きしめて後ずさった。

 絵を描いた事を責められるだけでなく、描いた絵をよこせと言われるとは、つゆとも思っていなかったので、思わず逃げたのだ。

 だが、なぜ、自分が逃げなくてはならないのか。悪いのは理不尽な要求ばかりするシャラーナの方だ。相手側に謝り、許して貰ったのだからもう問題はないはずなのに、いつまでその事にこだわって、責められなければならないのか。

「嫌よ!なんで、あなたに渡さなくてはならないのよ!許して下さったって、何度も言っているでしょう?もう、それでいいでしょう!?大体、あなたが黙っていれば何も問題はないじゃない!なんで、四角四面にそこまでされなくてはならないの!」

「…リリナ!カートン家の規律に口出ししないで!」

 シャラーナは我慢がまんの限界のように、大声を出してからため息をついた。

「今のは悪かったわ。あなたはうちの者じゃない。…リリナ、中庭の絵を描いていいと言ったのはわたくしではないの。お茶会が始まってすぐにわたくしは席を立ち、しばらく戻って来なかったでしょう。

 あれは、伯父様達に許可を得に行っていたのよ。しばらく相談して、エソワ学校に通っているクユゼル家の令嬢なら、大丈夫だろうという事になって、許可が出たの。

 わたくしがあの奥の中庭に連れて行ったのは、風景が美しいのはもちろんだけれど、滅多に人が来なくて患者さんもほとんど立ち入らない場所だからよ。

 わたくしも描く対象は、人以外の風景だけにして欲しいと言わなかったから、そこはわたくしも悪いわ。ちゃんと言っておけば良かった。ごめんなさい。でも、あの人達があの奥の中庭にいた事から分かるように、あの人達は人目につきたくないの。分かるでしょう。演奏会にはいなかったでしょう?

 カートン家に来られる人達の中には、様々な事情がある人がたくさんいる。人に会いたくない人もたくさんいる。だから、あなたにも従って頂くわ。

 とにかく、伯父様達に報告する。先にパルエ達を帰さなくてはならないから、あなたにはしばらく待って頂くから。その絵の事も伯父様達の判断を仰ぐわ。」

 リリナはシャラーナのつけ入るすきの無い説明に、言葉もなく聞いていた。否応なしに自分が悪いと突き付けられる。

 でも、自分だけが悪いとは認めたくなかった。そんなに大変なら一言、説明してくれていいのにと思う。もっと、ちゃんと説明して欲しかったし、できの悪い兄弟姉妹に説教するように言わなくてもいいではないか。

 そう思うと少しだけ冷静になって静まりかけた怒りが再燃し、非常に腹が立ってきて、収まりそうになかった。腹立ちが内側から立ち上るようにして、リリナはシャラーナをにらみつけた。

「…だったら、なぜ、最初からそう言わなかったの?そんなに許可がいるのなら、そう言って下されば良かったのに!無理して頼まなかった…!わたくしだって、それくらいの分別はあるわ!

 きちんと説明もせずに、あたかもわたくしだけが悪いかのように、言わないで!わたくしはあなたの妹じゃないのよ!」

「…それは、確かにそうだけど、あなただって聞き分けがないじゃない…!カートン家ではそうなっているって言っているのに、黙って見過ごせばいいとか言って!わがままだわ、どこに分別があるって言うの…!」

「あなたに柔軟性がないからよ!いつでも、ギチギチ規則だけを守って!息苦しくないのかと思うわ!だから、竪琴の演奏も技術だけは一番うまいけど、面白みがないから学校で一番になれないのよ!

 真面目だけが取り柄で、後は何にもないのね!カートン家の規則、規則って言うなら、なんでエソワ学校に入ったのよ、カートン家の学校に黙って通っていればいいのだわ!あなたが違う所にいるくせに、わたくしにもカートン家の規則を守らせないで!」

 リリナは自分が言っている事の矛盾に気がついていない。たとえ、カートン家の敷地内であろうと、リリナには適用されないと無意識のうちに思い、疑ってもいないからだ。

 そんなリリナでも、一つだけシャラーナを黙らせる事ができるものを知っていて、たぶん、それについて言ってはいけない、と頭の片隅では警告けいこくをしていた。でも、今のリリナにはそれで言うのをやめる理由にはならなかった。とにかく、シャラーナをぎゃふんと言わせて、屈服させたかった。

 以前、シャラーナは自分から医者には不向きだから、エソワ学校に通っていると言っていた。だから、詳しく理由を聞いた事はない。それでも、学校内で場違いよね、という雰囲気があるのはリリナでも分かっている。

 リリナは今まで、一度も口に出したことはなかった。シャラーナのはっきりした物言いが嫌いではなかったし、さんをつけずにお互いに呼び合い、八大貴族だからって関係ない、それと同じであなたがカートン家の娘だろうと問題なく親友よ、と繰り返し言っていた。

 そのリリナが、シャラーナがカートン家の学校に行かない事を口にしたのだ。シャラーナの表情が、今まで以上にサッと強張った。顔色は青ざめ、両目に涙を浮かべた。両手でスカートを握りしめた。

 わたくしの勝ちだわ、とリリナは思いつつもこの勝ちはほこれるものでも、喜ばしいものでもない事は分かっていた。気分も良くない。

「…何も知らないくせに。」

 シャラーナの声は最初は小さく、それでいて今までと全く違う声の調子で、リリナはシャラーナを凝視ぎょうしした。

「何も知らないくせに、分かった口をきかないで!」

 悲鳴のような声にリリナは怖気おじけづいた。

「真面目だけが取り柄ですって?真面目にならざるを得ないのよ!カートン家の重みがどれだけか分かりもしないで!伯父が宮廷医の医師団長だというだけで、どれほど、重圧がかかるか分からないくせに!従兄も宮廷医で他に一門の者が三人も宮廷医なのよ!

 医者になりたくてもなれない、カートン家の者の苦しみがどれほどか、分かりも知りもしないくせに、勝手な事を言わないで!」

 リリナは呆然ぼうぜんとしていたが、ずっと怒っているため、冷静に何かを考える事ができなかった。これ以上、何か言ったらだめだと分かっているのに、止められない。

「そんなのあなたの問題じゃない…!そんなに悔しくていじけているなら、もっと勉強して医者になればいいのだわ!わたくしに命令するのと関係ない…!」

 リリナは本当に単純に、シャラーナの学力がついて行けないからだと思い、半分呆れて馬鹿にしながら言い返した。

「あなたに、分かるわけない!」

「あなたじゃないもの、当たり前じゃない!」

 偉そうに何を言っているのよ、リリナの中に自分でも意識していなかった、貴族意識が表面に現れていた。

 心のどこかでお金持ちでもない、ただの医者の家門の平民のシャラーナが、自分達と同じ学校にいる事が許せないと思っていた。確かに医者は大切だし、カートン家が普通の医者の家門とは違い、宮廷医を二百年間も輩出し続けている上に銀行も運営し、商いもしている。

 だけど、貴族や世間を動かすほどの大金持ちでもない、いわば中途半端なお金持ちが一流の女学校に通っている事が分不相応だという同級生達と同じで、何も言わなくても否定しない思いがあったのは、確かなのだ。

「わたくしはカートン家の娘じゃないもの。一緒にしないで頂きたいわ。あなたは、一生懸命頑張って医者におなりなさいな。そうでなければ、あなたの卑屈な心はいやせなくってよ。」

 リリナは自分でもおどろくほど、高飛車に言い放ってから己の傲慢ごうまんさに気がついた。気がつけば同級生達に八大貴族の娘だと、ちやほやされてめられるのは当然の事だと思っていたのだ。

 シャラーナの両目から大粒の涙がこぼれ落ちた。リリナは少し反省した。言い過ぎた事は分かっている。歩み寄ってなぐさめようと、シャラーナに近寄った。だが、それさえも常に上にいるのだという揺るぎない確信からくる余裕なのだということを、この時、リリナは初めて気がついた。

 心に余裕ができて初めて、シャラーナに悪かったかしらと考えられたのだ。

「あの、シャラーナ、大丈夫?わたくし、ちょっと…。」

 リリナは最後まで言えなかった。シャラーナにほおを引っぱたかれたのだ。衝撃しょうげきのあまり、シャラーナを凝視した。頭が真っ白になり、何をされたのか生まれて初めて叩かれて、理解できなかった。

「なりたくてもなれない、さっき、そう言ったでしょう、あなた、馬鹿なの!」

 今日、二回目の「馬鹿」だ。さっき、謝ってもいいと思った思いはすぐに消え去り、これだから平民の娘は粗暴そぼうなのよ…!と心の中でののしった。でも、口ではおどろきすぎて声が出せない。

 顔をぐしゃぐしゃにしながら、シャラーナはリリナに怒鳴った。

「わたくしは血が怖い…!お父様が馬車の事故で亡くなった時の事を思い出す…!お父様はわたくしを抱きしめて、かばってくれた。わたくしは怪我をしなかったけれど、お父様は壊れた馬車の窓ガラスが、深々といくつも体に突き刺さって、馬車の枠もお父様の頭を強打していて、血が、血が、わたくしの体を伝い落ちて流れて行くの。

 その血が座席のクッションに吸い込まれて、どんどん吸い込まれたけれど、吸い込みもできなくなって、池のようにまっていった。わたくしは何もできずに、抱かれたまま『お父様、しっかりして。死なないで。』と泣いて頼んだわ。お父様は途切れ途切れに『大丈夫だよ、助かるから泣かないでいいんだよ。』とわたくしをはげましてそれが最後の言葉だった。」

 シャラーナの目は、どこかうつろだった。リリナは決して言ってはいけない事を、軽々しく偉そうに言ってしまった事を後悔した。単純に勉強ができない程度の話ではなかった。自分の手に余るような過去の話に、恐れおののいていた。

 さらに、自分が激しく怒っていた理由は、ただの傲慢ごうまんが故だと気がついた。

「お父様の体から出る血が止まって、流れ落ちた血が冷たくなって、お父様の体から少しずつ体温が消えて行って、お父様の体も芯から冷えるように冷たくなっていった。氷のように冷たくなってから、わたくしは助け出されたの。お父様の体はもう死後硬直で固まって、わたくしの体が冷たいお父様の体から抜け出た後も、腕が下がらないでそのままの姿勢を保っていたわ。」

 あまりにも生々しい話に、リリナは画帳を胸に抱きしめたまま、シャラーナを凝視していた。息さえも忘れたように、シャラーナを見つめた。体は知らず、震えていた。

 生まれて初めて、人を傷つけた。腹立たしさのままに暴言を吐いた。そして、リリナが言った言葉は決して、言ってはいけない言葉だった。

 もう、聞きたくなかった。だけど、それは我がままだ。それくらいはリリナも分かった。でも、リリナは今までやりたくない事はやらなくていい、そんな家にぬくぬくと育っていた。

 両親の事では嫌な思いもする事はあるが、シャラーナほど苦しい体験をしたわけではなかった。シャラーナに我がままで聞き分けがないと言われても仕方ない。分かってはいるけど、聞きたくなかった。

「もう、いいわ!分かった、ごめんなさい、もう、言わなくていいの!」

 リリナは耳をふさごうとしながら叫んだ。だが、シャラーナにその腕をおさえられた。

「最後まで聞いて、責任を取りなさい、途中で逃げるなんて卑怯ひきょうよ!」

 シャラーナに怒鳴られても、聞きたくないあまりに怒鳴り返した。

「言わなくていいって、言ってるわ、どうして聞かないのよ!」

「わたくしは、あなたの召し使いじゃない!」

 リリナは、ハッとしてシャラーナを見つめ返した。召し使いじゃない、その言葉がリリナの胸を刺し通した。

「あなたが言う通り、努力したわ!血反吐が出るような努力をした!人体解剖の場に何度も足を運んで、解剖される場面を何度も見て血に慣れさせようとした!でも、無理だったの!血を見るたびに全身が固まって動かない。何とか動けても、体が震え、思考も止まって役に立たない…!血に慣れようとすればするほど、ひどくなって吐いた!

 だから、せめて薬の専門家になろうとしたけど、特定の数種類の薬草に降れるだけで、全身に発疹ができ、ひどい時は呼吸困難になって息ができなくなって、死にかけた。三回目に死にかけた時、お母さまに泣きながら、お願いだから医者になろうとしないでと頼まれたの!

 あなたに分かった口を利かれて、勉強程度頑張ればいいわ、なんて言われたくもない…!生まれながらの貴族のお嬢様に、分かるわけがないわ…!」

 シャラーナは叫ぶだけ叫ぶと、走り去った。

 リリナは震えながら、その場に取り残された。命がけで医者になろうと努力したシャラーナに、自分はなんて傲慢で心無い、酷い事を言ったのだろう。

 リリナは気分が悪くなって、その場にしゃがみこんだ。なんとか吐き気をこらえた。吐き気を堪えてから、ゆっくり息を呼吸すると吐き気が少しずつ収まっていった。

 なぜか泣きたいのに、涙は出なかった。ただ、人を激しく傷つけた事の恐怖に囚われていた。

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