暗闇御飯

 朝の五時に目が覚めてしまい、しかも腹が減っていたので、コンビニで簡単なものを購入した。


 帰ってきた部屋の中は、カーテンもまだ開けておらず、電燈もつけていないので、完全なる闇が支配していた。弁当特有の嫌な湯気が充満する。


 そこで、はたと気づいた。

 この暗闇の中で食事をしたら、面白いのではないか、と。


 暗闇レストランというのが存在する。感覚の一つである視覚を制限することにより、味覚嗅覚触覚……他の感覚が鋭敏になり、食事がより美味しくなるという話だった。はず。やらない理由がなかった。


 結果から言うと、その食事は決して楽しいものではなかった。


 何を食べているのか、分からないのである。

 なるほど、確かに味も匂いもある。舌にも歯にも触れるし、噛み砕く音もする。それでも自分が何を食べているか分からないのだ。


 目が慣れて、ぼんやりと輪郭だけ見えていたが、まるで暗闇そのものを食べているかのようだ。そんなものを食べて、美味しいはずがなかった。


 よくよく考えれば、暗闇の中で食事をする経験など滅多に無いのだ。酷いスケジュールで、真夜中にコンビニおにぎりで済ませる時でも、コンビニか駅の電燈はあるし、最低でも月明かりはある。キャンプをする場合でも、やはり食事時には火を焚く。食事と光は切っても切り離せないものらしい。そう言えば暗闇レストランでも、蝋燭は用意されていた。


 食事を終えて電気を付けると、そこにはゴミが残っていた。そこでようやく私は、食事をしたのだな、という実感を持つことが出来たのだった。

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