逃走
知り合いと二人、ほろ酔いで歩いていたところ、キャッチに捕まって二軒目に行くことになった。最初の店で殆どお金は使っていたのだが、その金額で、はい、大丈夫です、とかいうので、それならばと思ってしまったのだ。なんて馬鹿なことを、そう思うだろう。私も思う。酔っている時なんてそんなものだ。
店に入った時から違和感はあった。屈強な男が二人して入口を固め、居酒屋とは思えない過剰な装飾で彩られているのだ。そして私と知り合いの元に、一人ずつ店の者(本人たちは否定していた)が付いた時点で確信に変わった。ここはそういう店だ。勝手に酒を作り始め、知り合いも上機嫌で喋っていたが、私はトイレに逃げ込み、逃げる計画を立てていた。酔いはすっかり覚めていた。
ようやく思いついた作戦というのが、とにかく逃げる、それだけだった。場合によっては強行突破だ。知り合いはこの際だから捨て置くしかない。なにしろ今作っている酒の、一杯分の金も無いのである。袋叩きにされてもおかしくはない。
意を決して出口に走った私だったが、ごく普通に止められてしまった。
「何してるんですか」
「いや、財布に金が無いから、降ろしに行こうかと」
嘘である。口座にも金は無い。我ながら気が利いてると思ったのだが、そういう手合いは多く相手しているのだろう。全く通用しなかった。
「嘘ですよね」
「本当に、今からコンビニ、ほらこれだけ」
「はぁー……。良いっすよ、もう。帰ってください」
「あっ、じゃあこれだけでも」
「いらないっす。さっさと出ていってくれません?」
お前らが金額を誤魔化して連れ込んだんじゃないか、とは言わない。言うわけがない。あと、こういう場合、キャッチと店員はほぼ無関係である。金の無い客を通された店側も被害者と言えなくもない。
「はい、すいません。それじゃ」
「いや。あの人もツレでしょ? なに一人で逃げようとしてんすか?」
何故かこの時が一番辛かった。
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