カツアゲ

 背の高い木が一本と、その周りを石で出来た正方形の椅子(もしかしたら芸術作品かもしれない)が囲んでおり、しかも高台にあるので、どうぞ溜まり場にしてください、と言わんばかりの空間であった。私は下校時にその近くを通るのだが、呼び止められやしないかといつもビクビクしていた。


 ついにその時はやってきた。

 ちょっと良いかな、みたいなことを言われた気がする。何も良くはなかったが、そう告げたところで傷が増えるだけだろうと判断し、私は卑屈な笑みを浮かべながら応じることにした。


「十円貸してくれない?」


 こういう連中の言う貸せとは、くれと同じことだろうが、十円で片がつくなら、と思いさっさとくれてやることにした。

 ところが、財布を確認してみると、十円玉が何故か大量に有った。二十枚は超えていた。これまた何故か痛快な気分になった私は、十円玉を一つ残らずくれてやった。相手はかなり怯んでいたので、金は取られたが

、この勝負は引き分けということになるだろう。

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