盗るか捕られるか

 万引きが横行していた。連中は金が無いというよりは、ゲームの一種として楽しんでいるようだ。それで何を取るかと言えばお菓子とか、バッテリーとか、文字通り取るに足らないものばかりだった。余ってるんだけど、いる? と尋ねられたこともある。何がしたいのやら。

 店員に見つかったという話は聞かない。それが連中を調子に乗らせたのか、段々と信じられない行動に出始めた。連中は大概、制服の胸ポケットに盗品を忍ばせていたのだが、そのポケットの底をカッターで切ることにより、驚異の収納力を実現していた。

 万引きをしたことが無い奴は腰抜け、というような空気すらあった。流されやすい十代にあっても、それでも、私は万引きはしなかった。正義感とか格好の良いものではない。ただ臆病なのである。そして皮肉なことに、連中の方が肝が据わっており、上手に人生を歩んでいくものなのだ。

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