Log-162【勇者、異邦に降り立つ-弐】
「……別にあんたに招かれなくても女王様にくらい
「君は幾つになっても手厳しい娘だね。幼い頃からそこだけは変わっていないようだ。君にアナンデールの無謀を崩すのに加担してもらったのは、いつ頃のことだったかな……」
ハプスブルクはウルリカの追及をのらりくらりと
「――話を逸らさないでハプスブルク。あんたの手の内は読めてるわ、つまるところあたし達を利用しようって魂胆でしょ?」
ウルリカが核心を突く。以前メルランからの忠告に、「ハプスブルクに気を付けろ」という言葉があった。ここ
「当然、あたし達はその企みを阻止する為に動くわ。でもね、事と次第によっては……利用されてやってもいいと思ってんのよ」
「えっ……ウルリカ、それってどういう……?」
相互利用の持ちかけだった。それは飽くまでも提案でしかなく、実現するかどうかは別の話だ。しかし、仮に実現を見なくとも良いと彼女は考えていた。少なくとも、この提案にハプスブルクが乗ってくれさえすれば、相手の企みを看破するきっかけになるからだ。
「もちろん、互いの利になるならよ。いいことハプスブルク、あんたを含めたあたし達人類にはもう猶予がないの。
ウルリカの挑発するような煽り文句は、かつてゴドフリーとの会談にて用いたものと同様の手口だ。自らの手の内を明かし、相手の手の内を探る手段。むしろ今回ばかりは、一行側の考えなど全て見透かされていると思って構わないだろう状況だ。
「ふむ、ウルリカ嬢の考えは分かったよ。君の言う通り、私達には時間がないね。なら一先ず、禁城行きの馬車に乗り込むとしよう。車内でも話せるからね、その程度の話題なら」
あらゆる側面に対する理解、それを踏まえた上での合理的な即断、警鐘としての非効率に対する皮肉、これが
アウラの裏の顔であるゴドフリーとの決定的な違い、それは徹底的なまでの冷血。そう、熱による交渉など彼には不可能だった。むしろ煩わしいとまで思うだろう。しかしあえて熱情を交えた論理を語る、それがウルリカの策略。つまり、痛み分けを狙う作戦だった。
*
明けの薄明から日が昇り始めた青天の下、舗装された馬車道を突き進む一行を乗せた箱馬車。行き交う馬車の御者同士はすれ違いざまに手を掲げて挨拶を交わし、人流および物流の滞留を各々の努力と心がけで最小化していく。社会とは人と物と金とが資本という名の血液として循環し突き進む超個体の如き仕組みであると、自ら体現するかのように。
一方、勇者一行を乗せた馬車の車内では、張り詰めた空気が漂い続けていた。足を組んで堂々たるふんぞり返りを見せるウルリカ、その両隣には肩身を狭く縮こまりながら座るアクセルとエレイン。その向かいには、腕を組んで厳めしい表情を湛えるツキシロと、その隣でウルリカ同様に足を組み
そんな時だった、意外な人物が口を開いた。ふと、まじまじと一点を見詰めるツキシロ。その先には、エレインが大切そうに抱える一振りの曲刀があった。それは元々、
「貴方様のその刀、それはどちらで?」
「……え? え? これ?」
ツキシロの素朴な質問に対して、エレインは驚いて腰を浮かせる。彼は首肯して、彼女の抱えた曲刀を指さした。
「その銘には見覚えがあります……とはいえ、随分と古めかしいものだ。作り手はとうに亡くなり、何代と続いているか、あるいは失伝したか……といった程の暦を跨いでいるか。その一振りが大陸を渡り、それが何ともな奇縁によって、勇者の同行者の手に渡っていた。
エレインは胸に抱いた曲刀に目を遣る。その刀は長い歴史を辿って己の手に納まったようだ。その始まりが、この
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます