Log-101【人跡未踏よ、踏破せん-弐】
全身の力みを振り解き、呼吸を整え、脈拍を鎮め、魔力の流動を滑らかにする。静かに目を閉じて、意識を深層に沈めていく……深く………深く…………深く……………。それは、無我の境地に程近き、底意に漂いし諦観の念。最早、大地を鳴動させる砲火の轟音さえ、ウルリカの心は揺り動かせない。
精神の奥底から、次第に、泉のように湧き出る、真水のような混じり気のない意識。それは静かに、だが確かに、彼女の膨大なる魔力を力動させる。重く、鈍く、力強く、しかし軽やかな心で。
そして、彼女は目を見開く――
放たれし魔力によって生じた烈風に、アクセルとパーシーは塔から吹き飛ばされそうになる。しかし、暴風吹き荒ぶ力場に反し、ウルリカの心は寂寞として、
既に彼女の掌の中で、
だが彼女は、まるで泣き
そしてようやく、排水溝に螺旋を描く湯水の如く、猛る力場は
「はぁ……はぁ……安定周期に入ったわ。これでようやく、この石コロと同じ目線でモノを言えるわね」
ドッと吹き出る汗を拭い、静かに輝く魔石を、二人に掲げてみせるウルリカ。当初に感じた言い知れぬ禍々しさは、微かだが穏やかになり、彼女の勝ち取った支配権の確かさを物語る。
「……たまげたなぁ、本当に制御しちゃったよ、この娘。過去二百年を振り返っても、割と快挙に入るんじゃないかな?」
「そ、そうなのですか……大変なことを成し遂げたのですね、ウルリカは」
感嘆と安堵の溜息を漏らす二人、手足の強張りが解け、額にかいた脂汗を拭う。
「それでも油断ならないわ。こっからが本番よ」
そう言ってウルリカは、制御下にある
「こいつの扱い方は詰まる所、加速装置ってところね。今やこんなちっぽけな石コロの中には光さえ抜け出せない超重力が渦巻いてるのよ。にわかには想像出来ないでしょうけど。そんなモノをそのまま野に放てば当然過去の大惨事と同じ
ウルリカの掌の上に乗せた
「つまり! 内部に渦巻く超重力の回転流に魔術を乗っけて効力を指数関数的に上げるのがこの石コロの使い道ってことよ! 一、魔石の起動! 二、超重力の抑制! 三、臨界点ギリギリまで回転加速! そして四つ目、最後の工程ってのが――!」
ウルリカの掌で舞う
「『
呪文の詠唱。激しく燃え立つ灼熱の炎が剣に宿る。熱波の奔流、それはまるで、小さな太陽の如く、煌々とした唸りを上げて。
「終端の大火は幽かに集いて、大樹の根を灼き、盤を抜く!」
その詠唱が生むは、鋭く研ぎ澄まされた火矢。刀身を弓幹に
「興り鎮まり、天地の
猛火を纏えど、心は平静。その瞳は冷徹に、宙空に舞う
「『魔を以って魔を示す! 魔が
詠唱に詠唱を重ねる、それは追跡の魔術。頭に叩き込んだデータと、目に焼き付けた飽和魔石の貌を、炎の魔術に刻み込む。すると、ウルリカの番えた火矢には、あたかも無数の羅針が道程を指し示すように、青に煌めく光の筋が絡みついていく。
「はあああああッ!!!」
それはまさに、獅子の咆哮が如く。その猛りに呼応して、纏いし炎の
「ちょ、ちょっと! これじゃあ此処、保たないじゃないか!」
パーシーは目も開けていられず、手で光を遮りながら声を上げる。
「ウルリカを、信じてください! ギリギリまで、粘るつもりなんです!」
すぐにも溜め込んだその魔術を放たなければ、側防塔が瓦解する恐れさえある。だが、ウルリカはこの一撃に、込められるだけの魔力を込め切るつもりのようだ。魔力の血管である“
だが、彼女は決して魔力の力動を止めなかった。
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