自己満足


4限が終わった。

私は机の上に小さいお弁当を置いてから

みんなの輪を抜け出してトイレに来た。


一番奥の個室に入ってまず髪を下ろした。

じんわりと暑い。

夏は毎日ポニーテールだ。

柔らかい猫っ毛のこれはなぜかみんなが褒めてくれる。だからこのままでいる。

そしてたまにそんな自分に嫌気がさした時は

こうやって髪を下ろして解放感を嘗める。


次にスカートのポケットからカッターを取り出し

便器の蓋の上にその銀色を置いた。


別に何かあったわけではない。


野球部の先輩からの執拗なLINEも

世界史の先生の舐めるような視線も

影で私の悪口を叩く女達も

別にもう慣れてしまった。


その日常に慣れてしまった私自身が嫌だった。


腹が立ったので先に個室の扉を内側から蹴り付けた。

大きな音が鳴ってから急に怖くなった。

意味があるのかないのかわからないけど

とりあえず扉に謝っておいた。


やっぱり私の声は震えている。


なんかもう、嫌だなあ。


何も考えずに腕に赤い線を轢いて

今日を生きる意味を探した。


無論見つかるはずもないので

トイレットペーパーと一緒に丸めて流した。


こうやって自分に欠陥が増えていくと

心の弱さを許してもらえるような気がしていた。


流れるペーパーを見つめながら

自分の心を重ねてみた。

私も今、ぐるぐると溺れている。



スカートをさっきよりも短くして

私は教室に戻った。


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