浮かびあがる百

エリー.ファー

浮かび上がる百

 ラスボスはいない。

 人間が暮らしていた世界、そこに現れて急激に増殖した結果、現れたのがボスというものなのだ。

 大体、最近までボスやモンスターというのはある病気にかかった人間がなるものだと信じられていた。そして、それによる勇者や選ばれしパーティメンバーの発生条件というのも結局は人間が病にかかるのと同じメカニズムであると研究されていた。

 スチームパンク的な異世界の線も発見されていたこともあり、それぞれが干渉できないことを証明することはできても、そこから何かを読み取ることは結局のところできなかった。

 分かったことは山ほどある。

 しかし。

 分かっただけでは使えない知識も山ほどあった。

 何もなく。

 何もありはしない。

 研究は、実験は、多くの費用は無駄だったと結論づけられてしまう。

 その中で、出すことのできた一つの答えが、ラスボスの否定だった。

 百のボス。

 それらがここに存在している、ということがそもそもラスボスというものであり、共同で一つの意思を持つようなオカルトめいた話ではない。共同体としての共通認識を持ち合わせることによって生まれる、習性や文化といえた。

 勇者がボスをこれから倒していくということが理解できると次に問題となるのは、そのボスに付き従うモンスターたち。

 つまりは、雑魚キャラだが。

 そもそも、雑魚キャラたちはボスに忠誠を誓い、勇者への攻撃を行っているが、その忠誠を誓うという精神的構造が解明されていないのである。これも、習性であるとか、雑魚キャラ同士で行われている教育ではないか、との説を推し進めることができれば問題にはならなかったがそうではないらしい。

 つまり、今のところ出すことのできる結論はこういうことである。

 ボスという存在以上に、雑魚キャラのほうが多くの複雑な問題、もしくは利益を内包しており、研究の先はボスから雑魚キャラに向けるべきではないか、ということだ。

 実際、キャタクテリアが吐き出す糸は、キャタクテリアよりも小さい生き物に関しては有効に働くが、人間に対してはいくら吐かれても無害である。けれど、これらをまとめて糸状にすることによって糸同士で摩擦熱が生まれ、それらを束ねてマンゴストリの消化液をかけると、民間療法などではよく出てくる、消毒薬を作ることができる。

 実際、私たち人間の文化を根底から支える可能性を秘めているのはボスではなく、雑魚キャラであり、その存在は今後の発展に必要不可欠であると結論付けるべきである。その上、ボスには形態などの変化があっても進化がない反面、雑魚キャラには進化、退化、結合、幽体、状態異常進化、状態異常結合、状態異常幽体、ヘルソネデア、バンクストロップ。などの多くの可能性が秘められている。まだ見つかっていない雑魚キャラの種類が六万種はあると見積もられている点からいっても、研究費を注ぎ込むのは雑魚キャラとするべきなのは明白である。


「お前、よく言えたな。」

「何がだよ。」

「今日は、ボスの個体性についての研究をしている、あの人の会だったんだぜ。雑魚キャラを推した研究発表するとか、マジか。お前、ぶっとんでんな。」

「そもそも、ボス倒さなきゃ、この国に平和なんて来ないんだから、雑魚キャラの研究なんか後回しにするべきだろ。」

「は。お前言ってることめちゃくちゃ過ぎないか。」

「あの、教授、負けず嫌いだからな。これで、ボスの研究を、もうちょいマジにやってくれるんじゃねぇの。」

「え、それ、マジかよ。」

「あの教授には期待してんだよな。ま、俺のほうが年下だけどさ。」

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