第77話 迷いの森(前編)

4人の勇者が活躍している頃


ワタルたち『漆黒の守護者』と『魔導兵団』with『中層の覇者』の面々は


『迷いの森』を目前にしていた



『魔導兵団』の悲願である人の姿に戻る事


それを可能にする存在『ドライアド』



『ドライアド』とは木の上位精霊


森を支配するほどの力を持っている


分体と呼ばれる器を創り出し、その器に魂を憑依させ行動する


本体は安全な場所にあり、分体が破壊されても死ぬ事は無い




ギルドの情報によると『ドライアド』は『迷いの森』のその奥に住処を構えているらしい


そう言う訳で、遠路はるばるやって来た訳である


しかし『迷いの森』と言われるだけあり


踏み込んだものは、決して返ってこれないと言われており


冒険者でさえ恐れて中に入ろうとするものは居なくなってしまったそうだ




『もしもし ドライアドさん 聞こえますかぁ?』


ワタルは『念話』で話しかけてみる


もしもしは異世界でも通用するのか?


返答はない


『ええと 次に返答がない場合は、武力的措置を行使しま~す』


そしてアトラスが空に向けて一発ぶっ放す


魔導砲を




『直ぐに参りますので! 少し! 少しお待ちください!』


効果覿面であった


「やっぱ 何かあった時はこれに限るな!」


「ワタル あまり武力に訴えるのは得策ではありませんよ?」


と言っているが、満更でもないと言ったアトラスさん




姿を現したドライアドは上位精霊の品格を備えており、その美貌は男たちを虜にするとの噂に違わず美しかった


透き通るような魅惑的な衣装を身に纏っており、かなり煽情的である


「お待たせして申し訳ありません」


「いやぁ よかった」


「もう少し遅かったら この森が消滅するところだった」


ドライアドの顔が引きつっていた




「それでご用件は?」


森の精霊の質問に団長が答えた


「俺達を人の姿に戻してほしい」


一同に深々と頭を下げる『魔導兵団』の10名


「どうしようかしら?」


「それ相応の応酬が必要ですわね」


相手に弱みがあるとみるや


手のひらを返したように高飛車な態度に出てくる


「おい! 上位の精霊だか何だかしらないが」 


「誇り高い戦士が、揃って頭を下げてるんだ」


「それ相応の対応ってもんがあるんじゃないか?」




「ワタル いいんだ」


「人の姿に戻る事は俺たちの長年の悲願だった」


「それが叶うと言うのなら、いくらでも頭を下げる」


祖国の為


愛する家族の為


人の姿を捨ててまで戦った


その家族は、機密保持という名目で皆殺しにされた


その無残な亡骸を見たとき


彼らの怒りは国を亡ぼす程だった


滅ぼすと言っても手にかけたのは魔導兵開発の関係者と一部の王族


それだけで国は自然崩壊した


愛すべき家族


帰るべき祖国


彼らは何もかもを失った


彼らに残された唯一のもの


それは『魔導兵団』という絆で結ばれた


たった10人の家族


それから彼らは願うようになった


人を殺すだけの兵器から


人の姿に戻りたいと




「俺の仲間がそう言ってるから 今は我慢するけどな」


「ここまでエラそうな態度を取っておいて」 


「出来ないって言うなら、こちらにも考えがある」


「また、あの攻撃を撃つんですの?」


「あれほどの威力の魔法を、そう何度も使えるとは思えませんけれど?」


彼女は思ってしまった


ワタルたちが、威嚇のために


自分たちの持てる最大の攻撃を放ったのだと


そして、それは連続して放てるようなものではないはずだと




「いや 何度も仲間に手を煩わせるのもなんだから」


「今度は俺が直接、やらせてもらうわ」


「俺は仲間の様に我慢強くないから」 


「出来ないなら、出来ないって」


「今のうちにはっきり言えよ?」


そう言うとワタルは、竜戦士に姿を変える


そして、地面に向かって拳を撃ち込んだ


身体強化も闘気も纏っていない一撃


だがその拳には、自分の尊敬する戦士たちの誇りを傷つけた怒りに満ちていた


怒りの鉄拳が『迷いの森』全体を震わせる


地面は衝撃に耐え兼ね大きく陥没する


その怒りの波動は『迷いの森』に住むものたちを恐怖に陥れた事だろう




「自分がどうこう言われるのには慣れてるけど」


「仲間を侮辱されるのには慣れていないんだ」


「これ以上俺の仲間に舐めた真似をするのなら」


「『迷いの森』が地図から消えちゃうかもよ?」


冗談のように言ってはいるが


拳に込められた力の波動は


それを十分に実現できるほどの威力を感じさせた




「ほ、本当に申し訳ありませんでした」


木の上位精霊は


ようやく自分が相手にしている者の力量に気づき


深々と頭を下げた


「これまでに人族には、散々に森を荒らされて参りました」


「その恨みつらみのせいで」


「つい失礼な態度を取ってししまったのです」


「全ては私一人がの責任 私はどうなってもかまいません」


「どうかこの森 そしてそこに住まう者たちには、お慈悲をお願いいたします」




ワタルは感じた


今の謝罪こそ彼女の本心なのだと


「そうか人族が迷惑かけてしまってたんだな」


「それなら俺たちも謝らないといけないな」


「申し訳なかった」


深々と頭を下げた


ワタルはこの世界の人間ではない


だが、これまでに色んな縁で結ばれた者たちがいる


家族と呼べる者たちも


だから、1人の人族として、誠意をもって謝罪をした




震える声で彼女は答えた


「私はこの森を統べるものとして、恥ずべき行いをしてしまいました」


「私の持てる全てでもって、皆さんの要望に応えたいと思います」


「もし事が成し遂げられない時は、死をもって償わせていただきます」




「怖がらせて悪かったよ」


「でも、安心してくれ 誰かの命を奪う気なんて気は、更々なかったんだ」


「その割には、込められた闘気が冗談で通用する量ではなかったですが?」


「すいません 反省します」




アトラスには頭の上がらないワタルだった



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