第59話 中層の覇者(前編)

彼らはアイアンアントの大群に囲まれ絶体絶命の危機に陥っていた


「ちくしょう! 俺のせいだ!」


「こんな大群が迫っているのに気づけねぇなんて」


盗賊風の男が素早く大蟻の攻撃をかわしその首を切り落としながら、今の状況が自分の落ち度だとこぼす


「済んだことをグダグダ言っても始まらない!」


盾を持った戦士が複数の蟻を相手どって攻撃が後方まで及ばぬように食い止める


だが、あまりにも数が多すぎた、大楯の防御が決壊するのも時間の問題だろう


「くそっ! 救難信号出すのが遅すぎた 俺の魔力も尽きた」


魔導士が絶望に暮れる


「諦めるな! とにかく円陣を組んで後衛組を守り切れ」


このパーティーのリーダーである戦士が仲間に発破をかける


それが無駄な努力だと知りながら


今の彼に出来る事


後は神に祈るのみだ


(神よ! 俺の命ならくれてやる どうか仲間を助けてくれ!)


魔術師の防御結界も僧侶の『守りの壁』も魔力を使い切りった


神も彼の願いを聞き入れてくれそうにない




通路の前後から挟撃されている


どこにも逃げ場はない


また一つ、ハジメーテの街のパーティーが一つ姿を消す


と思われた時、彼らは現れた


駆け付ける3つの影、なんと彼らは壁を走って冒険者たち元へ駆けつけた


彼らが放つ強力な気配に、魔物たちも一瞬動きを止める


その一瞬の間にパーティーに襲い掛かっていた魔物たちは高周波のうなりを上げる短刀によって斬り捨てられていた


「今更だが、助けは必要か?」




「『漆黒の守護者』か! いやあんた達は」


パーティーのリーダーがその正体に気づく


「『魔導兵団』!」


だが、自分の知る彼らの姿にしては、やけに軽装過ぎた


「何であんたたちが?」


「『漆黒の守護者』は『魔導兵団』と合同でダンジョン攻略中だ」


「俺たちは、彼らが攻略を達成するまでの代役だ」


「正直もうだめかと諦めていたところだ」


「頼む力を貸してくれ」


「もちろんだ」


「俺たちはその為に来たんだからな」


3人は行動を開始する




「あんたたちは俺とこの中で待機だ」


団員の一人が魔道具を取り出す


「『トーチカ』展開」


瞬く間に、鉄壁のドームが冒険者たちを包む


「いくらあんた達でもあの数のアイアンアントの相手は無理だろ!? しかも二人だけなぜ外に残した!?」


これでは無駄死にだと言いたかったのだろう


しかし!


「今までの俺たちなら無理だっただろうな」


「だが今の俺たちなら、あんたたちを守れる!」


「だから安心しろ」


ドーム内に映し出された外の映像を見て冒険者たちは納得せざるを得なかった




「『モードチェンジ:ディフェンス』」


団員の一人が軽鎧から、大楯を持った重装備の戦士へと姿を変える


「『モードチェンジ:アタック』」


もう一人が大剣を持った戦士へを姿を変えた


『グラビティー・シールドバッシュ!』


斥力を纏った大楯が数匹の大蟻を吹き飛ばす


「『激振剣五月雨』」


大剣を軽々と振るうと、鉄の硬さを誇るアイアンアントの外殻を軽々と切り裂いていった


通路の一端を制圧するのにかかった時間は、ものの数分だった




「さて俺はもう片方を片付けるかな」


『モードテェンジ:スペルキャスター 魔導砲モード』


瞬時に多脚砲台へと姿を変えアイアンアントの大群へと砲口を定める


背中に感じる魔力圧縮路の振動が発射の準備が完了した事を告げる


射線上にの他の冒険者の生命反応がないことを確認すると


「『トーチカ』一部装甲展開」


『魔導砲発射!』


圧縮された魔力が直線を描き射線上のアイアンアントの大群を消滅させた




信じられない光景に、我を忘れる冒険者たち


「『魔導兵団』これほどの強さとは」


我に返ったリーダーがようやく言葉を吐きだす


「いや 団長や特化型のメンバーはともかく」


「汎用型の俺たちに、これほどの力は無かった」


「全ては、『漆黒の守護者』のお陰だ」


「それよりもケガ人はいるか?」


「全員満身創痍だが、幸い大けがを負った者は居ない」


「ならばこれを仲間に飲ませてやれ」


そう言ってパーティー全員分のポーションを手渡す


この街で手に入るポーションはすべて目にしているはずだが、見慣れぬ色をしたポーションだった


しかし、躊躇わずに飲み干す


助けてくれた恩人への信頼の証だ


そしてその効果に驚くことになる




「何だこれは!? 飲むだけで傷が回復するどころか体力、いや魔力まで回復しているぞ」


「これはまさかエリクサー!?」


「いやそれは違う『マルチポーション』だ呼び方には気をつけろ!」


(今まで常に冷静だった団員が動揺しているだと!?)


「帰還用にもう一本ずつ渡そうと思ったが、まだエリクサーと言うなら渡せないな」


(なんだと!? それほど名前が重要だと言うのか!)


「いや『マルチポーション』だな これからは絶対に間違えない!」


「いいか? 下手に間違うと販売中止になる恐れがある」


「だから気をつけてくれ!」


「ちなみにこのポーションは、ギルドで非常に良心的な価格で販売されているぞ」


「ぜひ携帯品のひとつにに加えるべき逸品だ!」


ワタルに言われた通りに、宣伝も忘れない




「ちなみにこの『トーチカ』もギルドで手に入る」


「これがあれば救援が駆け付けるまでの間、身を守ってくれる」


確かにあれだけの数のアイアンアントの猛撃をものともしなかった


「小型で軽量、しかも良心価格だ!」


これもワタルに渡されたカンペ通りだ!




「こんなすごいポーションと魔道具が俺たちにも買えるのか?」


「もちろんだ! ギルドに戻ったらぜひ確認してみてくれ!」




冒険者が無事に帰還できそうだと判断すると


「助けを呼ぶものがある限り」


「俺たちは必ず駆けつける!」


「だから『冒険者れこーだー』を借りるのも忘れるな!」


そう言って3人は去って行った


最初はこのカンペのセリフが恥ずかしかったが、今はもう慣れた




無事帰還できたパーティーが、彼らが推奨したアイテムを求めてギルドに駆け込んだのは言うまでもない




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