第57話 魔導兵団からの依頼

『冒険者れこーだー』は冒険者たちの間で好評だった


ワタルは新たに新しい機能を追加した



『救難信号発信機能』 危機的状況になった時に特別な魔力波形を発信することが出来るようになった


重傷者が出たり、物資が無くなり行動不能になった時に救援を要請できる



『救難信号受信機能』文字通り『冒険者れこーだー』の救難信号を受信できる機能


受信感度は上下5階層内


立体表示可能な地図には信号の発信地点が表示され、迅速な救助活動が可能となった


救助が間に合わず親しかったパーティーが全滅したと、涙を流す冒険者の姿を見た


すぐに機能を追加を決意する


エヴァさんがマルチ機能で頑張ってくれたおかげで、機能の追加は予想以上に早く完了した




『冒険者れこーだー』以降、ワタルは開発した魔道具の中からいくつかをギルドに追加で提供していた



『マルチポーション』 様々な回復用ポーションの効能を『融合』スキルでひとつにまとめた


冒険者にとって長期の攻略には、大量の物資が必要になる


このポーションがあれば複数のポーションを持ち歩く必要がなくなる上に、ポーションを取り出す際に間違ったポーションを取り出す心配も無くなる


緊急時にそのメリットは大きい


「これってエリクサーじゃねぇのか?」


「断じて違う! 製法とか根本的に違うし、エリクサーって呼ぶなら提供はやめちゃうよ?」


「いやいや マルチが作った『マルチポーション』! 語呂もいいじゃねぇか それにしよう!」


呼び名にはこだわりがあるようだ


ワタルが何故そこまで呼び名にこだわるのか?


それは、謎に包まれている


エリクサーは素材も貴重でその製法も秘匿されており、独占販売されるため、欲しくても手が届かない冒険者が多い


それに対し、『マルチポーション』はその性能に対して良心価格に設定されているために売れ行きも好調との事




『閃光玉』『煙玉』 文字通り閃光と煙は発生させる魔道具だ魔力を込めて一定時間が経つと術式が発動する


一時的ではあるが相手の視覚を奪えるので、部屋にいる魔物の殲滅時や、大量の魔物が発生したい際の撤退時に絶大な効果を発揮する


魔力さえ使えれば使用できるので、魔術師以外でも使えるのもメリットの一つだ


「ここは俺が引き受ける! なあに、後から直ぐに追いつく」


と言って殉職する良心的な冒険者が命を落とす悲劇も少なくなる


恋人を失った女冒険者の涙が、ワタルの練成スキルを発動させた





『トーチカ』 以前冒険者を救出する際に、アトラスが使用した魔道具


丈夫な魔物の外皮や甲殻を張り合わせた複合装甲を使用


『硬度強化』と『耐久強化』術式の採用で軽量化と耐久性を両立させることに成功


これがあれば救助が駆け付けるまで、持ちこたえることが出来るようになる




すべて身を守るためのアイテムであり、ダンジョン内でしか動作しない


軍事転用されることを防ぐためだ




これらの利益を、ワタルは一切受け取っていない


「利益の使い道はどうする?」


ギルドマスターに尋ねられた時にワタルはこう答えた


「先ずは、街にある孤児院に寄付してほしい」


資金不足で明日の食べ物にも事欠く孤児院が沢山ある


孤児院を出て冒険者となった先輩が酒の席でこぼしていたのを耳にしたのだ




「利益に余裕が出てきたら、学校を作って欲しい」


「学校だと?」


「ああ それほど大げさなものでなくていいんだ」


「読み書きと計算が出来るように教えられる場所があればいいと考えてる」




冒険者にも文字の読み書きや計算が必要だ


そうでなければ、分け前をごまかされたり


間違って実力以上のクエストを受けてしまい違約金を払う羽目になったり、最悪の場合命を落とす場合もある


字が読めないばかりに、不当な契約書に署名してしまい、奴隷に身を落とす者さえいる


酒場では、自分や仲間が実際に被害に遭った話を山ほど聞いた


そういった悪意から、少しでも善良な冒険者を守りたいと思った




冒険者に限った事ではない


読み書きと計算が出来れば、商人などに雇ってもらえたり


自身で商売を始めるチャンスも生まれる


冒険者以外の職業を選べる機会も出来て欲しいと言う願いもあった




年を取ったり、ケガで体が思うように動かなくなる


そうなると冒険には出られなくなってしまう


冒険者はいつも失業の不安を抱えて毎日を過ごしている


冒険のノウハウや武器の扱いを教えるようになれば、講師が必要になる


そうなれば、引退した冒険者の再就職にもつながるはずだ




「なるほど おめぇがそこまで考えているとはな」


「いや これは全部、先輩たちのアドバイスから考えたことだ」


「分かった! 一度には無理だろうが、出来るところから始められるように手配する」


「よろしく頼むよ」




ギルドマスターとの話し合いがひと段落すると、待機しているアトラスと合流しようと酒場に戻る


そこにはアトラスと共に『魔導兵団』の団長も同席していた


「アトラス殿がそろそろ戻ってくると言っていたので、待たせてもらっていた」


「少し話をする時間を貰えないか?」


「今は急ぎの要件もないから大丈夫ですよ」


団長は譲ってもらった魔石の礼がしたいと度々訪れては、一緒に酒を飲む機会が増えて、かなり親しい間柄になっていた


「俺たちはある目的のためにダンジョン攻略をしている」


今までその理由を、誰にも話しことは無い


「俺たちは元の姿に、人に戻る方法を探している」


「ダンジョンコアにその情報があるとにらんでいる」


(なるほど、その考えは的を得ているな)




「だが正直、攻略ははかどっていない」


魔導兵が動作するには大量の魔力を消費する


ダンジョンで活動するには魔石が必要となり運用にはコストがかかる


そして、彼らには魔導兵である自分たちの身体を修理できる者が居ない


この街にも錬金術師はいるが、彼らには高度な錬金術で生み出された魔導兵を完璧に整備する程の技術は無い


更に、戦闘力の無い彼らをダンジョンに同行させるのは不可能だ




「そこで、君たち『漆黒の守護者』にダンジョン攻略の手助けをして欲しい」


「いいですよ」


「報酬はってあれ? そんな即決してしまっていいのか?」


自分にとっては都合がいい話なのに、相手の心配をしてしまう


心根の優しい彼が、軍人にそれも魔導兵になるのは、相当の覚悟が必要だったに違いない


「ちょうど俺たちもダンジョンコアに用があるんですよ」


「利害は一致してるんだ 断る理由はないでしょう?」


「それに俺は団長さんとは飲み仲間ですしね」


「わたしも意義はありません」 


「でも団長さん ワタルと攻略すると余計に効率が悪いですよ?」


「何せ、すぐに他の冒険者に手を貸しに飛び出していってしまいますので」


「アトラスさんや それは言わない約束でしょう とほほ」


二人のやり取りに、団長は思わず噴き出した


自分が笑うなんて何年ぶりの事だろう


張りつめていた心が、この二人の前では緩んでしまう


だが団長は、それがとてもありがたかった




こうして『魔導兵団』と『漆黒の守護者』共同のダンジョン攻略作戦が開始される事となった



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