第52話 漆黒の守護者

ワタルたちはハジメーテの街のダンジョン内にいた


当初、それほど難しくないと思われていたダンジョン攻略


その進捗は思ったよりも進んでいなかった




「ワタル 前方に冒険者たちが多数の魔物に囲まれているようです」


「じゃあ 助っ人に行っちゃいますか!」


『また? もうこれだから攻略がはかどらないんじゃない』


「まぁまぁ そう言いなさんなって!」


『モードチェンジ:ステルス』


(シノブ お前に会いたいよ)


ワタルの身体そして装備が変化する


その姿は在りし日のシノブの姿にそっくりだった


その姿がブレたと思った次の瞬間に掻き消える


瞬間移動の如きその俊敏さでダンジョンを走り抜け、窮地に陥った冒険者たちの元へと駆けつける


昆虫型の魔物が負傷した仲間をかばおうとする冒険者に襲い掛かる


それを高周波のうなりを上げる短剣が急所を貫ぬき絶命させた



『キラー・ビー』


かつてワタルたちが戦った『オーガ・ビー』の下位種


強さはそれほどではない


だが駆けつけた大部屋には巨大な巣が壁に貼りつくように存在していた



そして無数のキラー・ビーが冒険者たちに、今にも襲い掛からんと飛び回っている


「手助けは必要か?」


「漆黒の!? 頼む! このままじゃ全滅だ」


「任せておけ!」



遅れてアトラスも駆けつけ威力を落とした魔導砲を放ち周囲の数匹を仕留める


「アトラス 『トーチカ』を展開してくれ!」


「了解です」


アトラスは背中に取り付けられた魔道具を取り外し床に設置


起動術式を発動させる


魔道具の底から支柱が3mほど伸び、本体から複数のフレームが曲線を描いて地面に突き刺さった


折りたたまれた装甲がフレームを覆うように展開されていく


装甲の展開が終わると魔道具は小さなドームと化し、内部には外の様子が映し出される




『トーチカ』ワタルが賢者の石の技術を利用して作り上げた『緊急避難用魔道具』


その装甲の厚さは非常に薄いにもかかわらず『硬度強化』『耐久性強化』が施され非常に強固だ


多数の魔物に囲まれ絶体絶命の時に逃げ込めば、救援が駆け付けるまでの時間稼ぎになる


実際に『トーチカ』の装甲はキラー・ビーの攻撃を受けてもビクともしなかった




『モードチェンジ:ヒーラー』


小さな体が大きくなり、全身鎧に戦槌、小型の盾を持った回復師の姿に変わる


(ユウジそしてギムリさん力を貸してくれ!)


『サウザンド・ソード』


ワタルの体内に埋め込まれた魔導石:『ドワーフの宝箱』が光を放つ


『トーチカ』の装甲に、千にも及ぶ魔法陣が浮かび上がり、剣が召喚される


聖剣に魔剣


その全てが業物ばかり


攻撃を仕掛けていた何匹かは、現れた剣を避け切れずに自ら突き刺さり絶命する




「数多の英霊よ、己が剣を取り、舞い、踊り、蹴散らせ」


『千剣闘舞!』


魔法陣から現れた剣が宙を舞い次々とキラー・ビーを切り刻んでいく


その光景は、かつての英雄たちが集い、愛用していた剣を握り戦っているようだった


ものの数分で、あたりを飛び回っていたキラー・ビーは駆除された


だが、まだ巣の中には無数のキラー・ビーが潜んでいる




『モードチェンジ:スペルキャスター 拡散魔導砲モード』


(マコお前の力借りるぜ!)


回復師はローブを纏った魔術師へ姿を変え


魔術師の周りを複合装甲が包み込みその内部に衝撃吸収用スライムが充填される


それを複数の金属製の脚が地面へと固定する


背中から伸びた砲身は、真っ直ぐにキラー・ビーの巣を捉えた


「『トーチカ』の上部装甲解放!」


装甲が開いた瞬間


「『拡散魔導砲』発射!」


圧縮された魔力が拡散放射されキラー・ビーの巣を消滅させた




全ての敵を葬り去った後、負傷者の治療に移る


「俺の傷はどうってことない それよりもこいつの腕を・・・ せめて血を止めてやってくれ」


無念そうに自分達を守って戦った仲間を見つめる盗賊風の冒険者


無数の敵にもひるまず勇敢に挑んだ戦士の腕はキラー・ビー顎に切断されていた


「腕の先は残ってるか?」


「残ってるが、どうするつもりだ 切断されちまった腕なんだぞ?」


「もうどうにもならないじゃないか!」


大切な仲間が腕を失った


やり場のない怒りが語気を強める


その気持ちは痛いほど分かる


だからこそ、その気持ちに報いることがワタルの今やるべき事なのだ


切断された上腕をもとの位置で固定し、ワタルは新たに発現したスキルを発動する


『修復 レストア』


切断された箇所が見る間に繋がり、戦士の腕は完全に回復した


「俺の腕が!? 治ってる! やったぞ 俺はまた冒険者を続けられる!」


大量に出血して意識が朦朧としていた戦士が切断された腕と共に体力までが回復し、喜びの声を上げる


「一体どうやって?」


「それは企業秘密だ それとこの事はなるべく他言無用で頼む」




他のメンバーの傷も癒したが、装備もボロボロで無残な有様だった


ワタルは『修理 リペア』を使い装備を修理していった


驚きの連続で声の出ない冒険者のリーダーに問いかける


「回復薬や携帯食は?」


「戦いの最中に捨てた」


絶望的な状態だった、少しでも身を軽くするため真っ先に荷物を捨てるように指示を出した


「あんたの判断は間違っちゃいない」


「そのおかげで俺たちは間に合った」


「これを持って行ってくれ」


十分な食料と回復薬『マルチポーション』を人数分渡す


「これは? 回復薬か?」


「『マルチポーション』だ」


「『マルチポーション』?」



説明しよう『マルチポーション』とは、傷回復、体力回復、解毒、魔力回復、様々な状態異常の回復させる数々のポーションを『融合』スキルで一つにした万能薬


肉体疲労時の栄養補給に元気ハツラ~ツの一本だ!



「それってエリクサー」


「いや『マルチポーション』! エリクサーでは断じてない! エリクサーって言うなら返して!」


「いや分かった! 『マルチポーション』だな覚えておく!」


「非売品だけどね! 今は!」


「これで帰還できそうか?」


心配そうに尋ねるワタルにリーダーは


「傷も治してもらって、装備も新品同様 携帯食にエリクじゃなかった『マルチポーション』までもらった」


「正直出発前より充実しているくらいだ」


恥ずかしそうにそう言った




「それはよかった じゃあ気をつけて! 行こうアトラス!」


礼を言う暇もなく立ち去って行く


ワタルとアトラスを見送り


「あれが噂の『漆黒の守護者』か!? 俺たちは神に見放されて無かったな」


そうワタルたちには、めでたく5つ目の二つ名がついた!


攻略が一向に進まないのは、ワタルが危機に陥ったパーティーを見つけては、直ぐに助けに行ってしまうからだった




だが、アトラスもエヴァも、今のワタルにはそれが必要な行為なのだと感じていた






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