第50話 神速の薪割り師

ワタルたちは自分たちの居る街の名を、今になって知った


驚愕だった


ハジメーテの街


ハジメーテって・・・


多分違う街に行けば、ツギーの街がありそうだ


いやフタツーメかもしれない


ともかくハジメーテの街でハジメーテのクエストの攻略を目指す!




ハジメーテのクエストは薪割り


そう薪を割るのだ!


辺境の街で薪を作る


薪を作るためには、木を伐らないといけない


となると魔物が徘徊する森を散策する羽目になる


これは一般の人たちにとっては命懸けだ




だから木を切った、切った、そして割りまくった


古の魔導兵の力


そして竜の戦士の力を存分に発揮した 


発揮しすぎるくらいに発揮した


ついでに襲い掛かってくる魔物たちの首も斬ってやった!


『核』はアトラスと仲良く半分こした




切り株は、無駄に『ドラゴニック・インパクト』で粉砕!


竜戦士化は急激に体力を消耗するので、長時間維持するための良い訓練になる


結構な土地が開けたので、柵を作り耕してみた


依頼人は一生分ではないかと思われる薪


そして頑丈な策に囲まれた畑を一日にして手に入れた


始めは腰を抜かしていた


その後落ち着きを取りもした後、すごく喜んでくれたので二人とも満足だった


次の日も、そして次の日もワタルとアトラスは木を切って切って割りまくった


気付けば膨大な薪と、丈夫な策で覆われた、広大な畑が辺境の街を覆っていた




次のクエストは、下水道の掃除だった


魔物化したネズミの駆除も兼ねている


磨いた、とにかく磨いた、磨きに磨きまくった


途中現れたネズミが襲い掛かってきたので


『ドラゴニック・インパクト』


ネズミは木っ端みじん


あたりは血まみれ


『核』も粉々に砕けた・・・


次からは軽く潰して収納することにした


次の日も、また次の日もワタルとアトラスは下水道を磨いて、磨いて、磨きまくった


気が付けばそこは上水道と見紛わんばかりの輝きを放っていた


ピッカピカの、つっるつるだった!


依頼人は、自分の目を疑ったが、我に返るとすごく喜んでいた


次回は指名で依頼してくれるそうだ


依頼料を弾むと言ってくれたが、気持ちだけもらっておくと辞退した


何故ならワタルとアトラスは、人の役に立つ素晴らしさを感じられたのだから


それで十分だった




その次のクエストは、おばあちゃんの腰痛を治すために、孫である依頼人がお小遣いをはたいて依頼した薬草探し


薬草を探すよりもおばあちゃんの腰痛を治す方が早いので、自宅にお邪魔して『修理 リペア』で治してあげた


おばあちゃんは「あんなに痛かった腰が治っちまったよ! 10歳は若返った気分さ!」と喜んでいた


お礼にと、ちいさな依頼人さんが、おばあちゃん直伝のおいしいお茶を淹れてくれた


アトラスとエヴァは飲めないのを非常に残念がっていた


「ようし頑張って『味の分かる魔導兵』を目指そうぜ!」


「エヴァも時期が来たら身体を作る方法を探そう!」


新しい目標が出来た


依頼料は、おいしいお茶をご馳走になったからと言って受け取らなかった


小さな依頼人さんのおばあちゃんへの思いやりだけでお腹いっぱいだ




もうワタルのことを半端者と罵る者はいなくなった


二人は


『神速の薪割り師』


『進撃の開拓者』


『必殺の下水道磨き人』


『奇跡の整体師』


と呼ばれるようになった


二つ名を4つもつ冒険者


この世広しと言えども、ワタルたちくらいのものだろう




「おめでとうございます ワタル様とアトラス様はCランクになられました」


「これで、ダンジョン攻略も可能となりました」


気が付けば冒険者ランクが2つも上がっていた


銀のプレートがワタルとアトラスの胸でキラリと輝く!


クエストをこなす度に受付嬢さんの対応がどんどん良くなっていく


それもそのはず


二人のこなしていたクエストは誰もやりたがらない物ばかりだったからだ


何故なら、金にならないから


いわゆる、『塩漬け』と呼ばれるクエストだった


彼らはそれを、嬉々としてこなしていたのだ




二人で酒場の一席に腰かけていると、ガラの悪そうな冒険者が近寄ってくる


アトラスはファイティングポーズで迎え撃ったが


「今日は、おめぇらに謝ろうと思ってよぉ」


喧嘩を売りに来たのではなさそうだ


「半端者とか言っちまって本当にすまなかった」


「うちの母ちゃんの腰を治してくれてありがとう」


「この恩は絶対忘れねぇ」


「俺に出来る事があったら何でも言ってくれ」


そういって去って行った


固まるワタルとアトラス


あのかわいい依頼人さんが


あの冒険者の子供だった事に驚きが隠せなかった




ようやくダンジョン攻略が可能になった


でも二人は塩漬けのクエストがあれば率先して受けた


何故か前より数が少ない


他の冒険者たちが受け始めたからだと受付嬢さんが言っていた


「あなた達を見ていて、みなさん冒険者になった頃を思い出した、そうおっしゃってましたよ」




『人の役に立つ』


『力のない者たちを守る』


そう言って冒険者になったはずの自分たちが、気づけば効率の優先、利益の優先ばかりに目を向けるようになってしまっていた




黒ずくめの二人の戦士


地味で目立たないクエストを受け


わずかばかりの報酬をもらっては、今日の依頼人も喜んでいたなと、はしゃぐ


彼らの働きぶりを見て、自分たちが忘れていたものを思い出した


ハジメーテの冒険者たちであった



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