第40話 穢れしもの

アトラスの機転のお陰で溶岩地帯を順調に踏破したワタルたち


残す所、上層へと続く階段が存在する部屋のみとなった


(溶岩地帯と言えば火系統の魔物、その上位種となれば・・・)


「レッドドラゴンが居るかもしれないぞ! 油断しないように!」




龍もしくはドラゴン


地上最強との呼び声が高い災害級モンスター


高い知能を持ち


そのブレスは大地を沸騰させ


その爪は刃と化し冒険者たちの防具を紙の様に切り裂く



ドラゴンには、主にその属性によって火系統の赤竜、水系統の蒼竜、風系統の雷竜、土系統の黄竜が存在する


下等種にはレッサードラゴン


上位種には炎帝龍、蒼帝龍、雷帝龍、黄帝龍と呼ばれるグレータードラゴン


その更に上には『神の大戦』を生き残った炎龍神、水龍神、雷龍神、黄龍神の4柱が君臨している




ここにいたのは、そのどれでもなかった


「暗黒龍だと!」


ツヨシが警戒度マックスで叫ぶ



暗黒龍とは、混沌の勢力に加わった龍族の末裔であり


邪龍とも呼ばれる最凶の存在



「俺は暗黒龍なんかじゃねぇ 白竜だ!」


白竜は竜族の中でも希少な存在で、しかも強力な力を持っている


その上位種の白金龍(プラチナム・ドラゴン)などは龍神に匹敵する強さを持っていたとされる


『神々の大戦』でその絶大な力を発揮し、神ですらその力を恐れてその存在を封印してしまったと伝承に記されている


「言葉遣いも良くないし、色は黒いし それで白竜と言われてもなぁ」


ツヨシが困惑するのも当然である




「俺は『穢れもの』 だから白竜なのに呪いのせいで黒いんだ」



『穢れもの』 呪われた存在の総称 呪いを恐れて仲間からも敬遠され、長く生きられず朽ち果てる存在



「ここで生き残れば魔王が呪いを解くと約束した」


「おめぇらには恨みはねぇが、死んでもらうぜ!」


と言ってはいるが、竜は魔王の言葉など信じていなかった


ただ戦うための言い訳でしかない


問答無用で戦いは始まった




黒い白竜は強かった


その巨躯に似合わぬ俊敏さ


ブレスの驚異的な威力


尾の一撃は壁や床を軽く破壊し


その爪は完全装備のワタルたちを満身創痍にする


その鱗は強靭で、3大魔法金属に匹敵するかもしれない


まともに打ち込んでもこちらの武器が損傷してしまう有様だ




だが、勝負の天秤はワタルたちの方へと傾き始めた


ツヨシの大楯が、ブレス、爪の斬撃、尾の打撃を防ぎ切り


損傷すれば即座にワタルが修理する




シノブの手裏剣が鱗の隙間を縫って撃ち込まれ、爆炎で鱗を剥がしていく




超再生を許さず、鱗がはがれた部分を狙いアオイの大刀の斬撃が深く刻まれていく




ユウジの『ギガントジェットハンマー』が頭部にさく裂し、さすがの竜も意識を朦朧とさせた




マコの氷撃魔法 氷の槍が傷へと突き刺さる




そこにアトラスの新必殺技が炸裂する


『飛翔』と体の各部に付与された『推進』が火を噴き体を急回転させる


腕に折りたたまれ格納された刃が展開し前方に突き出される


そこに魔力が集まり螺旋を描く巨大な錐が実体化する


『スパイラルジェットアタック!』


巨大な魔力のドリルが黒い白竜に穴を穿つ




ワタルがそろそろ参戦しようかなぁ?


と思ったところで決着がついた


呪われた竜の一言によって


「もう闘う力が残ってねぇ 俺の負けだ」


「最後に良い戦いが出来た これで思い残す事はなぇ」


「さぁ 止めを刺せ」




「それは断る!」


ワタルは言い放った


自分に出番がなかったから拗ねている訳ではない


「え!? なんで?」


と思わず黒い白竜が驚くのも無理はない


「だって、君は僕たちを殺す気がまったくなかっただろう?」


「そんな相手を殺せる訳がない」




今まで生きてきて良い事など一つもなかった


仲間からも疎まれ、群れを追い出された


冒険者にに見つかれば有無を言わさず襲い掛かられた


挙句の果てに魔王に囚われ、無理やり闘わされる




だが、最後の戦いの相手はいつもと違った


自分が穢れものだと言っても嫌な顔をしない


相手も自分も全力を出し合った、彼らになら殺されてもいいとさえ思った


なのに彼らは止めを刺さないばかりか、信じられない事をし始める




「今から手当てをするからね」


「修理 リペア」


「何故だ? 回復しない」


ユウジの回復魔法も使ってもらったが駄目だった


呪われた竜はあきれたように言った


「俺は穢れものだ、回復魔法は一切効かない」


「俺も竜のはしくれだ 直ぐには死なねぇが この通り致命傷だ」


「もうじき死ぬ だからお前が止めを刺してくれ」


だが彼らは往生際が、とてつもなく悪い


これで諦める訳がなかった




「再度断る! 何か方法があるはずだ」


何故だ? 


さっきから自分は穢れたものだ、呪われた存在だと言っている


自分は敵だ


なぜ癒そうとする?


回復魔法は効かないと言ったのになぜ諦めない?


「無駄だと言っただろう 何故俺なんかを救おうとする?」


「だって僕たち一緒じゃないか!?」


「魔王におもちゃにされて このまま死んで本当にいいの?」


「そりゃ俺だって悔しいに決まってんだろ」


「だったら諦めないで 何か方法があるはずだ」




「馬鹿野郎!」


「俺なんか生きてたって 何の役にも立たねぇだろうが!」


「そんなことない だって、あんなに強かったじゃないか!」


いつの間にか景色がゆがむ


(ああ 俺は泣いているのか?)


(泣くのなんて、久しぶりだなぁ)


(だって泣いたって誰も俺に構ったりしてくれなかったからなぁ)


「もうやめてくれ 死にたくなくなっちまう!」




「じゃあ生きようよ! それで一緒に魔王をぶっ飛ばすんだ!」


(何だこいつら? 何でおれの為に、こんなに必死になってんだ?)


今まで自分の為に何かをしようとする者など居なかった


だが、今目の前にいる者達は、必死に助けようとしてくれている


それを見ていると、どんどん死ぬ事が怖くなってくる


「あああぁ! ちくしょう! 俺このまま死にたくねぇよ!」


「安心しろ ワタルが絶対死なせないって言っている」


「だから大丈夫だ」


何の根拠もない言葉


だが自分を励ます力強い言葉


それを聞いていると、恐怖で溢れていた気持ちが和らいでいく


不思議と何とかしてなりそうな気さえしてくる




アトラスが提案してくる


「ワタル 竜は『龍核』と言う魔物とは別次元の強度を誇る『核』を持っています」


「『神々の大戦』を生き抜けたのも、その肉体乗る良さに加え『龍核』の強さが理由だったと言われています」


「故に竜は『龍核』が体内から離れても死ぬ事は無く仮死状態となります」


「仮死状態であれば収納できるのでは?」




「黒い白竜さん 俺の事信用できる?」


「出来ねぇ」


本当はもうとっくに信用している


だが、あまのじゃくな性格が返事を変えてしまう


「じゃあ 契約の魔法を使おう!」



契約の魔法 取引などに使われる魔法で破れば契約内容に基づいて罰が下る


最悪の罰 それは死だ



「俺に『龍核』と体を預けてくれ 絶対に生き返らせる」


「俺が生き返れなかったら どうするつもりだ?」


「命には命」


「その時は僕も死ぬ」


流石に仲間たちもそれは、やりすぎだと反論するが、彼は断固として自分の言葉を曲げようとしない


「おめぇ 馬鹿じゃねぇか? お人好しにも程があるだろ?」


本当は嬉しかった


こんなことしか言えない自分が嫌になる


「ああ 馬鹿なんだろうなぁ」 


「でも、これが今の僕で この考えは絶対変えられない」


(ここまで言われて どう断れってんだ)




「契約とか面倒くさいからいらねぇわ」


「どうせほっとけば死ぬ運命だ 好きにしろ!」


そう言って龍は体内から『龍核』を出現させる


「「「「「「おお! こんなことが出来るんだ!?」」」」」」


(こんな時に こんなことで驚くなんて 本当に変わった野郎たちだぜ)


だが、竜は彼らの事が気に入った


特に彼の事が


『龍核』はワタルの身体に吸い込まれた


「うわぁ! 『龍核』僕の身体に入ったぞ!?」


「『龍核』を認識しましたリンクしますか? YES/NO」


リンクすると


「おお!『龍核』の力により進化が可能です 進化しますか? YES/NO」


どうやら黒い白竜はワタルに力を貸してくれるようだ


ワタルは『龍核』の力を借りて進化した



『ドラゴニック・ゴブリン』(新種) 


ドラゴンの加護を得たゴブリン


一定時間『龍の力』を行使できる


この世界が創造されて以来初めての快挙


アナウンサーさんが驚くのも無理はない



しばらくすると竜の身体は仮死状態に入り動かなくなった


ワタルは急いで体を収納する


こうしてワタルたちは黒い白竜の命を預かることになった




そして舞台はいよいよ最終階層


地下1階層



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