第7話 『上位種』への進化

臭い袋作戦が功を奏し、着実にコボルトを仕留めていくワタル


レベルの上がり具合も順調だ


『錬成』拡張スキルも、新たに『変質』と『修理 リペア』の2つを取得




『変質』 対象の材質を『走査』で構造を把握している材質へと変化させる


『修理 リペア』 予め『走査』した対象物の損傷を直すことが出来る 生物の治療も可能




『変質』は『変形』させやすい材料で形を作ってから丈夫な材質に変化させられる


『修理 リペア』は、新たに『錬成』し直すよりも少ない魔力と時間で装備の補修が出来 なんと生物の治療も可能というのだから大いに重宝しそうだ


魔改造されたゴブリンの身体は、受けた傷を再生能力で癒されてくれるが、スキルでの治療の方が格段に速く回復できるはず


これは戦闘中に傷を負った際に非常に大きなアドバンテージになる


しかし拡張スキルは、これ以降はレベルが上がっても取得できなくなった


ここからは何かしら条件を満たす必要があるのだろうか?


しかし、今あるスキルだけでも工夫次第で出来ることは沢山ある


今やれることを精いっぱいやる、そして生き残る可能性を少しでも上げる


いつにもまして前向きなワタル、その原因は、コボルトを一体また一体と倒して『核』を吸収するにつれ感じる感覚


その時が近いと、『上位種への進化』の瞬間が間近に迫っていると




魔王チュートリアルによると、LV10に達する毎に『上位種への進化』が起こる


進化後、レベルはリセットされLV1となる


レベルアップは『核』の吸収よりも大幅に身体能力が向上した


『上位種への進化』は、身体能力だけでなく、体格や外見にも影響するほどの変化がある


ワタルの予想では、おそらく『ホブゴブリン』に進化するはずだ


ホブゴブリンは、体長は人の成人男性と同等程度


子供サイズの現在と比べると、これだけでも大きな変化だ


最大の変化は筋力の増加だ、筋肉量が増えると体重も増加し、俊敏性は失われるが、重装備化、武器の大型化などの策を講じてうまく立ち回れば、格上のモンスターとも互角に渡り合えるだろう




通常のゴブリンの寿命は短い、それでも寿命を全うできる個体は少ない


何故ならゴブリンは圧倒的に戦闘能力が低いから


それ故、自力でホブゴブリンへと進化できる者はごく稀である


通常目にする魔物の上位種は、ダンジョンがランダムに、もしくは定期的に誕生させた者がほとんどだ


ワタルはそのごく稀な現象を、その身で体験する事となる


(おめでとうございます! ワタルはLV10に達しました)


(ホブゴブリンへと進化が可能です 進化しますか? YES/NO)


(アナウンスの声が、なんだかやっぱり嬉しそうなんだよなぁ)


ウサギの角に何度も突き刺され、涙が出るほどの臭いに耐え、最初は敵う気がしなかったコボルトにも勝てるようになった


レベルアップのスキル取得のアナウンスが頭の中で流れる度に、その努力が報われた気がして、どれだけ嬉しかったことか


だから、アナウンスの内容がテンプレートだろうが何だろうが関係ない


この喜びを、感謝の気持ちを、只々伝えたかった


(いつもありがとう! 本当に嬉しい!)


やはり、返事は無かったが、なんだか温かい感情が伝わってくる気がする


あくまで気のせいなのだろうが、構いはしない


今すぐにでも進化を体験したい気持ちで一杯だが、何せ初めての経験である


進化中はどんなことが起こるか分からない


取りあえず保留にして、はやる心を抑えセーフハウスへ帰還する




そして、進化を開始・・・する前に装備を外す


何せ、子供サイズからマッチョな大人サイズに成長するのだ


某一子相伝の拳法使いのように、装備が引きちぎれるのは避けたい


彼の上着は高度な再生能力を持った特殊装備らしく何度でも再生していたが、自分が装備しているのは、ごくありふれた皮鎧なのだ


『錬成』すればいい話だが、今まで苦楽を共にした愛着もある


失うのは惜しい


(よし 装備も外したし、それでは進化の開始お願いします!)


ワクワクしながら、その時を待つワタルであったが


(ぐお!? 痛てぇ! なんか想像してたのとちが~う!)


力がみなぎり、ヒーローが変身するように華麗に変化するのだと思っていた


その思惑は外れ、激しい痛みと、骨がきしみ、筋肉がちぎれ、皮膚が裂けるような身体の悲鳴が聞こえてくるばかりだった


召喚前の、元居た世界での生物の進化であれば、数万年かかるであろう変化を、この短時間で成そうとするのだ


その負担は想像もつかない


その壮絶な負荷が、ワタルを襲い痛みを与え、身体中から悲鳴をあげさせているのだ


脳細胞も変化しが及んできたのか、視界が回り始め意識が朦朧とする


そしてとうとうワタルは意識を失った




どれ程時間がたったのだろう、ようやくワタルは目を覚ました


少しよろけるが、問題なく立ち上がり変化を確かめる


まず視線の高さが、驚くほど高くなった


そして自分の身体を見まわし、激しく隆起した筋肉を見た


「ウオオォ!」


雄々しく、そして激しい叫びが響き渡る


ありったけの力を込めて、握りしめた拳を壁に叩きつける


拳は壁に深くめり込み、その周囲に幾条ものひびが入り破片が飛び散った


今までの努力が、そして進化の最中に感じた激しい痛みが報われたのだ、と実感するワタル


それ程の変化だった




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