第8話 上層への挑戦

ムキムキマッチョなホブゴブリンへと進化したワタル


愛用していた皮鎧を手に取り、しばし眺める


何度眺めても、子供サイズで着られそうもない皮鎧が大きくなったりはしない


(ううむ かなり大きくしないと装備できないな)


このダンジョンには武器屋も、鍛冶屋も存在しない


通常ならお手上げ


だが、ワタルには『錬成』およびその拡張スキルがある


使わない手はない




『変形』で大きさを変え、装備しては大きすぎる部分、小さすぎる部分を修正


あれこれと時間をかけ、納得のいくまで細かな修正を何度も繰り返す


(意外とこう言うのって楽しいもんだなぁ)


最初は上手くいかずくじけそうになったが、何度も試行錯誤を繰り返すと次第にイメージ通りお結果が出始める


(みんなに会いたいなぁ)


ゴブリンの姿で独りこのダンジョンに放り込まてから、不意に寂しさや不安がよぎることが度々ある


そんなとき、仲間に会いたいと言う気持ちが溢れてくる


もしかしたら自分と同じように、彼らもこのダンジョンのどこかにいるかもしれない


(そうだと信じたい!)


と願うワタルだった




この世界にワタルと共に召喚された仲間たち


ツヨシ、ユウジ、シノブ、アオイ、マコ


身体能力、器用さに加え優れた容姿、運動神経、技、知力


それぞれが、召喚される前から非凡な才能を持っていた


この世界に来てからも、それぞれに新しい才能を開花させ、強くなっていく仲間たち


それに比べ、ワタルは召喚される前も、その後も平凡な自分に負い目を感じていた


(なんで俺が勇者に選ばれたんだろう? ツヨシの方がよっぽど勇者らしいのに)


騎士となった彼は強さだけじゃない、勇気も人望もある


そんな逸材がいるのに、これと言った取り得もない自分が、勇者なんて大役に抜擢されてしまった


召喚者なら必ず与えられ、行使できる強力な力『固有スキル』が使えない


それがさらに彼を追い詰めた


「ワタルはそれでいいんだ」


「そうだよ 他の人の言葉なんて気にしなくていいんだ」


シノブには、背後に忍び寄られ浣腸された


「ほかの勇者がどうだったかなんて関係ない 気持ちを強く持て!」


「ワタルは私たちの勇者なんだから」


周囲から陰で『能無し勇者』と呼ばれ、落ち込んでいたワタル


みんなは、それぞれの言葉で彼を励ましてくれた




そんな自分も『固有スキル』が使えるようになった


そのスキルの力を駆使して、『上位種への進化』も果たした


努力すれば報われることが分かって、嬉しかった


この喜びを仲間と分かち会いたいが、それは叶わぬ願いだ


しんみりした気持ちを振り払うように、集中して作業を進めていく


苦労の甲斐があって、体にぴったりとフィットするサイズに仕上がった


しかし、装備してみて感じる


(パワーが上がったせいか、何だか皮鎧が心細いく感じるなぁ)


上層には更なる強敵が待ち構えているだろう


強力な攻撃に、今の装備が通じる気がしない


肉体の強化に合わせ、装備の強化も必要だと確信した


それならば行動あるのみである




一から鎧を作るのは難しい


それならばと、金属で補強してみることにした


練習とばかりに『錬成』しまくって、アイテムボックスに死蔵されていた剣を、全て取り出した


適当な大きさに『分割』していく


『変形』で、胸当て、籠手、脛あてと肉体の弱い部分を覆うように『変形』させた鋼を『融合』で貼り合わせた


特に破壊されると即ゲームオーバーになる『核』がある胸の装甲は、鋼の装甲を幾重にも重ねて強度を可能な限り上げた



頭部を破壊されると再生まで時間がかかる


今まで無防備だった頭部を守るために兜も作ってみた


皮鎧を『変形』させ頭の形に成形する


頬あてに革ひもを繋いで、首のところで固定できるようにし、簡単には脱げない工夫もした


出来上がった革製の兜の形に合わせて剣を『変形』させ『融合』で貼り合わせる


技術的に難しかったのと、視界が悪くなるのを嫌って、面当ては取り付けなかったが、内張りの皮で衝撃が吸収できる、鋼鉄の兜が完成した


盾もサイズを大きくした後、前面を鋼でコーティングして強度を大幅に上げた


全身を金属で覆ったフルプレートアーマーには程遠かったが


金属部分には、鍛造により作られた剣の鋼が使われている


並の板金鎧などより、防御力は高いかもしれない


今の技術を総動員した完全武装のホブゴブリン爆誕!




先制攻撃の成功は戦局を圧倒的に有利に導く


これを可能にする遠距離武器が欲しいところ


弓ましてやクロスボウなどは作れない


なので、皮だけでも作成可能な、簡単な構造の投石器『スリング』を作ることにする


たかが投石器と侮るなかれ


全体を二つ折りにして一端を手に巻き付け固定して他端とともに握り、広い部分に石をくるんで頭上で振り回し、遠心力で石を飛ばすその威力


(ゴブリン程度なら、当たればイチコロだぜ!)


自身がゴブリンのワタルが言うとかなりシュールだが


皮鎧を『分割』し『変形』で細い革ひもを作り、それを何本か寄り合わせて耐久性のある紐を作る


本体部分は皮を『融合』で貼り合わせて強度を上げる


最後に紐と本体を『融合』すれば完成




最後は剣、コボルトが持っていた剣をさらに大きく『変形』させ、各部の大きさを変化させては素振りをしてバランスを確認、修正を繰り返す


剣先を幅広にして重くすると、振り抜いたときに遠心力が働き、鋭い一撃が放てることが分かった


片手剣としてはかなり大振りだが、筋力が大幅に強化された今のワタルには問題なく扱えた


手にした力作を満足げに眺め、まだ倒してもいないが、倒したいと言う希望を込めて『オーク・スレイヤー』と名付けた


高校に入って完治したはずの中二病が再発しつつある


いや時すでに遅しか・・・


最後に製作物を全て『走査』しておいた


これで、探索の途中でも『修理』や『錬成』での補給も可能だろう




いきなり未知の領域を、不慣れな新装備で挑むのは無謀と言うもの


性能テストもかねて、兎と犬さん達に実験台になってもらうことにした


結果、鋼で補強された鎧は、アルミラージの角をいとも容易く跳ね返した


それどころか大型化した鋼の盾で叩き叩きつける、所謂『シールドバッシュ』でアルミラージュは瞬殺出来てしまった


スリングで飛ばした玉は、コボルトの頭を粉砕するほどの威力を見せた


肝は、石の代わりに鉄球を飛ばし殺傷能力を高めた事だ


剣を『分割』し球形に『変形』させた鉄球を量産していてアイテムボックスに収納しているのだ


即座に次弾装填が可能なため、複数の敵にも対応できる


アイテムボックスは『亜空間収納』とも呼ばれ、手に触れたものを亜空間に即座に収納、取り出しが可能、重さ、かさを気にせずに済む


特に召喚者に与えられるアイテムボックスは、収納できる容量も通常の『収納持ち』より桁違いで、収納したものは時間が経過しない為、劣化の心配もない


召喚者の特権ともいえる高性能アイテムボックスの恩恵を勇者だったころ以上にいや、弱者になった今だからこそ強く感じるのだろう


強力無比な遠距離武器の扱いも、練習を重ね命中度を上げた


スリングで仕留め損ねたら名剣『オーク・スレイヤー』の出番だ


先制攻撃をかわし猛然と駆け寄ってくるコボルトに向けて全力で袈裟懸けに振り抜く


直後、コボルトの上半身が斜めに、ズルリとずり落ちた


これと言った抵抗も感じず、一刀両断出来てしまった


(うおぉ! すげぇ! )


ワタル自身も驚く、想定以上に高い攻撃力だった


名剣『オーク・スレイヤー』その名も伊達ではないかもしれない


念のため、装備の予備も作成し、セーフハウスに保管していた荷物も全てアイテムボックスに収納済み


準備は万端!


この階層をほぼ踏破し、上層への階段の位置も把握している


(よし! いよいよ上階へ向けて出発だ!)


(ここには随分世話になったなぁ・・・ ありがとう!)


ワタルは、思い深げにセーフハウスを見つながら感謝の言葉を告げた


そして歩き出す


やがて登り階段へと到着し、それを一段また一段と踏みしめて登っていく


未知の領域『上層』へ挑むために

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