第4話 能無し勇者の固有スキル

『核』を取り込んでも『固有スキル』が手に入らない


魔王が用意した『蟲毒の壺』の如きこのダンジョンで、最弱の魔物であるゴブリンになり果てたワタルにとって、これは死活問題である


ゴブリンたる自身の体内の『核』に問題があり誤作動を起こしているのであれば致命的


複数回取り込む必要があるのか、はたまた手順が間違っているのか


確実に『固有スキル』を手に入れる方法を見つける為に、検証は必須事項であった


(とにかく新たに『核』を手に入れて調べてみないと)


必勝法が確立されたアルミラージを探してダンジョン内を捜索する


だが、遭遇したのは兎ならぬ犬であった


しっかりと足で地面を踏みしめて直立しており、皮鎧を着こみ手には剣と盾を装備している


コボルトである




コボルトは、体調は人の大人と変わらず、外見は前述のとおり直立し二足歩行する犬


鉱山跡などに住み着くゴブリンと並び雑魚と称される最弱クラスのモンスターだ


不運にもすでにこちらに気づいており、急速に接近中


まだ距離はあるものの、もたもたしていればあっという間に、間近に迫る勢いだ


そして迫りくる敵をしばし眺めワタルには確信めいた事がある


「開戦すれば速攻でヤラレル!」である


(もう瞬殺されること請け合いです!)と本能が叫んでいる


ならばやるべきことは一つ、180度転回して全速力で逃げるのみ!


だが、悲しいかな敵の固有スキルは『嗅覚強化』さらには『剣技』の複数持ち


このままでは、確信は現実へと取って代わられるだろう


それも、そう遠くない未来に


大人と子供程の体格差


無情にもコボルトとの距離はドンドンと縮まっている




どこをどう走ったかは、もう既に覚えていない


とにかく必死に走りながら


(マッピングしとけばよかった)


と考えていると視界の端に、これまで通った通路が描かれた地図が表示された


この時ばかりは魔王に感謝・・・しようと思ったが、すぐに呪いの言葉に変わるような出来事が起こる


前方に兎がいた


『前門の虎後門の狼』ならぬ『前門の兎後門の犬』である


(魔王の野郎絶対に殺っ! したいが、その前に俺が死にそう・・・)


角の生えた兎


アルミラージもちゃっかりワタルを補足し疾走を始めた




(ああ! やばい!やばい! このままじゃ俺死んじゃう! どうしよう?)


苦し紛れにマップを見てみると、すぐ前方に小部屋らしき空間がある


飛び込んだところで追いつめられるだけなのだが、恐怖のあまりそのような冷静な判断もできず小部屋へと飛び込んだ


(あっ! これ追い詰められただけじゃね?)


飛び込んでようやく、その事実に気づいたゴブリンよ哀れ


人生の最後と観念して部屋をよく見ると、そこには馴染みのある風景が広がっていた


(ここってセーフハウスじゃん! そうかぁ・・・ここで始まりここで終わるわけかよ)


セーフハウスとは、ワタルがこのダンジョン内で初めて目覚めた小部屋の事だった


ワタルが勝手にそう呼んでいるだけではあるが


第二の人生ならぬ魔物生がここで始まり、そして終わろうとしていた


しかい、ここにきて不可解な事が起こる




コボルトがセーフハウスの入り口に到着するも中に入ってこない


追い詰めたはずのゴブリンを見失ったとばかりに辺りを見渡し、視線が確かにワタルを捉えたはず、がそのまま通り過ぎる


鼻をヒクヒクさせているところを見ると、自慢の嗅覚でも確認しているようだが、すぐそばに居る悪臭で名高いゴブリンを認識できていない


(もしかしてセーフハウスって、ステルスモード インサイド?)


部屋自体か、魔物の『核』どちらかは不明であるが、持ち主以外には認識できない細工が施されているようだ


そうなるとコボルトの視線は同じくワタルを追ってきたアルミラージと交わることとなる


毒虫たる魔物が二匹お互いを認識する


その意味は、蟲毒の壺の掟に従わねばならぬ、と言うこと


デッド オア アライブ


ワタルの目の前で睨み合う、コボルトとアルミラージ


犬と兎の生き残りをかけた死闘が始まった




勝負は呆気なくつく事となる


アルミラージは持ち前の俊敏さを発揮するも、コボルトの『剣技』には及ばす、あっさりと胴と首に分断された


相手を仕留め、『核』を取り出さんとアルミラージへと歩み寄ろうとするコボルト


その一瞬の隙を、ワタルは逃さなかった


小剣の柄を両手で握りこみ上段に構え、コボルトに向かって素早く走りこみ、振り下ろす


小剣は喉を深く切り裂き、コボルトは何が起こったのか分からぬままその場に崩れ落ちた


『漁夫の利を得る』とはまさにこのことであろう


(うおっしゃぁ! 生き返るまでに早く『核』を取り出さないと!)


見紛うことなくアルミラージ、コボルトともに息絶えている


しかし、しばらくするとこの二匹は蘇生してしまうのだ


魔王の魔改造で『核』に付与された再生の能力によって




それは、「魔王をぶっ殺す!」と息巻いて、初めてセーフハウスを出てすぐの事だった


忌々しい映像が再度視界に表示された際に判明した二つの事実


「あ! もう一つぅじゃなくて二つだ! 言い忘れたことがあるんだけど聞きたい?」


「どうしようかな~? 言おうかなぁ~? やめようかな~? どうしようかな~? ねぇどうしたらいいと思う?」


(知るかっ! つうか、どうせ言うんだろうが! 早く言えっての!)


「おめでとうございます! 僕のお陰でぇ、あなたは不老になりました!」


(いや、ゴブリンの姿で年取らなくなっても嬉しくないんですけど?)


いや喜ぶべきか、とワタルは思い直す


ゴブリンの寿命は人のそれより遥かに短い


勇者として戦った時でさえ魔王との実力差は雲泥の差であった


ゴブリンとなった今、地球とイスカンダル以上に離れてしまったと言っても過言ではない距離を縮める為には、人の寿命でも足りない気がする


否、絶対に足りない


魔王曰く、このダンジョン内のモンスターは年を取らず、更に


「なんと! 『核』を破壊されない限り死にませ~ん! ってか死んでも蘇生したちゃうんだなぁ これってすごくない? ね! すごいでしょ?」


画面どアップのどや顔が、苛立ちを天元突破させる!


がそう言う事らしい


回復手段の無い今、怪我を負っても再生されるメリットは限りなく大きい


だがしかし、ほぼ『不死』に近いと言っても、『核』に直撃を受ければあっさり死んでしまうし、致命傷を負ったり、複雑な構造である脳を破壊されれば再生には時間がかかり、その間に『核』を抜き取られてしまえばゲームオーバーである


過信は出来ない


そう言うわけで、急いでアルミラージから『核』を抜き取り、コボルトは皮鎧を脱がせるのに苦労してようやく『核』を抜き取ることが出来た


コボルトの装備一式および二匹分の死体は、そのまま放置すればダンジョンに吸収され失われてしまうため、『アイテムボックス』に収納した


武器はともあれ、死体は使う時が来るかは、現在のところ不明である


(と言う訳で、奇跡的にアルミラージ 更に、コボルトゲットだぜ!)




まさに安全な場所である、と判明したセーフハウスに戻り


床に二つの『核』を並べて、検証を始めんとするワタル


前回は、魔王チュートリアルの信じて『固有スキル』を手に入れ損ねた


今回は絶対に失敗できない


と言う訳でいろいろと考察してみることにした


(第一の可能性として、手動でスキルを発動しないといけないのでは?)


そう思い辺り


(スキル表示! スキル表示!)


と念じてみたところ、思惑通りに、現在所有しているスキルが視界内に一覧表示じされた


恐るべし!魔王の魔改造クオリティー


期待はしていなかったが、勇者の頃に取得したスキルは全滅


表示されたスキルは『走査』と『錬成』のみ


しかも『錬成』はグレーアウトされて使用不可状態


勇者として召喚された際に、ワタルに与えられた『固有スキル』


それが『錬成』だった


そして何度試しても使えなかった、役立たずなスキル


そのせいでワタルは、陰で周囲から『能無し勇者』と呼ばれる羽目になったのだ


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る