FaLL

槻坂凪桜

第1話

 _____一年前。


 まだ蝉の声も五月蝿い九月上旬。



 張りつめた射場。


 引かれる弓。


 空気を裂く矢。


 貫かれる的。



 いつも通り。いつも通り見慣れていて。


 陳腐な世界が、全てモノクロに見えた中で。




『お兄ちゃん、頑張って!』




 客席から聞こえた澄んだ声が、白黒の視界を鮮やかに切り裂いて。




 その時からだった。


 腐敗して淀んだ日常が、いつの間にか透明に見えるようになったのは。



 景色は色を取り戻して、見る物全てが輝き出して。







 俺は、この瞬間に「恋に落ちた」という事を自覚した。

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