少年の蕾
水野優子
第1話 僕の出会い
何不自由なく、過ごして
特にクラスでも目立つ訳では無い
友達と言えば小学校の頃から一緒の学校に通っている奴一人だ。
僕はそれで満足していた訳でも無く、不満に思っていたわけではない。
でも雲一つ無い空を眺め続けていると、何か物足りなくなるような、そんな気持ちが時々僕に訪れてた時。
きっとその子にとっては一時的な通り雨のような出来事だっただろうけど、僕にとっては初めてサンタクロースからおもちゃを貰えたような、とても美しい景色を見たような感動が、蕾が芽生え始めた季節にあったんだ。
今年で廃校になるこの学校には使われなくなった教室が幾つかある。
その教室を使ってたまり場にする者もいれば、噂話を作り広めて楽しんだりする女子がいた。僕達が最後のクラスになるからみんなとても伸び伸びと最後の高校生生活を送っていた。
日直だった僕はゴミ捨て場に向かっていると2階の空き部室に人影を見た。
その部室は元茶道部で、例の噂話がある教室だったので誰も近づく事の無い部屋だった。僕はゴミを捨てた後、しばらく空を見つめながら先程の光景を頭の中で思い出した。空になったゴミ箱を片手で持ちながら、足を徐々に強歩に変えて、教室に戻した後、人気の無い階段を登り、茶室の前に足を止めた。
ドアの前からは人影は見えず、一度唾を飲み込み耳障りな錆びた音でドアを開けた。
そこには窓の下で腰を降ろして片足を畳片足を真っ直ぐ伸ばして、テレビをじっと無心で見るような表情で女の子が僕を見ていた。
人差し指と薬指に慣れたように細い煙草を持って、唇にそれを持っていき、その顔ツキからは想定出来ないくらい堂々と煙をフーッと吐き出した。
「……大塚くん」
見とれていた僕は名前を呼ばれて我に返った。
「あ、……長嶺……さんだよね?」
クラスの中でも一際整った顔をした彼女はその事を鼻にかけず控えめで、むしろ存在を忘れてしまいそうになるような子だった。それでも長い髪と白い肌に綺麗な顔は心奪われる男子が多かった。そんな陰ながらマドンナの彼女に僕なんて到底関わる事なんて、卒業迄ずっと無いと思っていた。
しかし、そんな彼女が手にしていた物は……
僕の目線の流れできっと何を考えてたかがある程度わかったのだろう。
クスッと笑いレモン型の灰皿ケースに煙草を入れて、人差し指を口の真ん中に立てた。
それだけで大抵の人は意味が通じるだろう。
しかし僕の動揺は目に見えたのだろう。
「内緒にしてね。」
声の小さいその子の声が空き教室に響いた。
「いつもここで……吸っているの?」
ついポロッと聞いてしまった。
「そうだよ。」
髪を下になびかせ、その場から立ち上がる。
「ここ、おばけが出るとかって…怖くないの?」
再びクスッと笑い、じっと僕を見る。
自然に口が固まった。
「おばけ、信じるんだ?」
クスクスしながらそう言われ
顔が少し火照った。
「そうじゃなくて…」
無力な抵抗をする。とても恥ずかしくなって俯くと既に彼女は目の前迄来ていた。
「大塚くんって、可愛いね。」
猫をあやすような優しい顔でそれだけ言って僕の横をすり抜けて空き教室から何事も無かったように歩いてあとを去った。
少年の蕾 水野優子 @mizunoyuko
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