第5話 王国への旅 準備編

 外での戦闘を窓から見ていた2人は、あまりの光景に絶句していた。


「マジかよ……」


「凄いですね。あれだけの人数の精鋭達を、たった2撃で……」


「それに、あの白い稲妻をまとった水の塊を放つ魔法、威力があり得ない位強かったな。私の中で最大の威力を誇る火炎系最高の魔法『フレアテンペスト』よりも恐らく遥かに高い威力を持ってると思う」


 あの白い稲妻に見えたのはクアメルが纏わせた神気なのだが、それは神にしか使えない物であるため、クアメルが水の神だということを知らない2人にとっては、神気によるものでなく、白い稲妻を纏った水の魔法に見えたらしい。


「とにかく、クアメルさんのお陰で助かったのですから、戻ってきたら感謝しなければですね。ミラ」


「ああ。勿論だ」


 そんな会話をしているうちに、クアメルが戻ってきていた事に気づいた2人は、戻ってきた彼女を今までで一番の笑顔で出迎えた。


「クアメル。お前本当凄いよな。あれだけの人数まとめて倒しちまうなんて。感謝してるぜ。ありがとうな!」


「2度も私を危機から救って頂き、本当に感謝しかありません。ありがとうございます!」


「そう2人に言ってもらえれば、………私もとても嬉しい」


 彼女は照れながらそう言った後、軽く風呂を済ませ、ご飯も食べずにそのまま寝るための準備をして、部屋に入っていった。


 あれだけの威力を誇る魔法を使ったんだ。そりゃあ疲れて当たり前だと、私達はそう思った。


「まだ外は少し明るいけど、私達も寝ましょうか。色々あって疲れましたし」


「ああ、そうだな」


 今までの疲れもあり、敷いてあった布団の上に寝転がると、直ぐに眠りに着いた。


 



 

  ~翌日~



「ん、ふわぁぁぁ………もう朝になってたのか」


 昨日の戦闘で、訓練もろくにしていない高威力魔法を放ったせいか、まだ疲れが完全には取れていない。


(こんなんで疲れてるようじゃ、これからやってけないなぁ。一応自分神様だし)


 これから訓練の時間を増やそうと決意しながら、朝食の準備に取りかかる。


「おはよう。疲れは取れたか?」

 

「うん。ありがとう。まだ完全には取れてないけど、大丈夫」


「おはようございます。ミラ。クアメル」


 何だか昨日の出来事が有ってから、2人との距離が、縮まった気がする。


 そんな事を考えながら、朝食を取っていると、ミラがこう話を切り出して来た。


「なあ。私思ったんだけど、ここにずっと居たら不味くないか? 昨日逃げた奴らがまだ援軍連れて戻ってきそうだし」


「クアメルが居れば誰が来ても蹴散らしてくれそうだから大丈夫そうですけどね」


「いや、流石にクアメルでも毎日襲撃とかされてたら参りそうじゃん。それに、食料の問題だってあるし………」


 確かにミラの言うとおりだと僕は思った。流石に毎日襲撃とかされてたら色々地獄だろう。それに、この家には食料の備蓄が非常に少ない。


 神や精霊といった存在は、生命維持を自分の神気や精気・魔力を使えば代用が可能である為、それらが全て何らかの形で枯渇するというあり得ない事態でも起きない限り、食料を必要としないからだ。


 だが、神や精霊以外はそういうわけにはいかない。食事と睡眠を必要な分取らなければ死んでしまう。なので、ここを出ようという意見自体には賛成である。


「ここを出るのは賛成だけど、その後どうするの? まさか永遠に野宿って訳にもいかないだろうし」


「ああ。それについては大丈夫だ。私に考えがある」


 ミラの考えはこうだ。


 2人と初めて出会ったあの廃村の奥の登山道から山を下り、そうしたら『リトナルク』という街に出るので、その街にある魔導列車という乗り物に乗り、そこから国境の街『オラオグ』まで行き、そして国境検問所から隣国『ルエルフ王国』に入るというものだ。


「ルエルフ王国まで行ければひとまずは大丈夫ですね」


「そうだな。あの国はヒーティルオン帝国とは違って亜人種への差別が皆無だからな。ここよりは発展してないけど、親切な人も多いし、本当にいい王国だよなぁ」


「じゃあ、最初にリュエルがあんな大怪我をしていたのって………」


「ああ。亜人種差別が原因なんだよ。帝国の皇太子の近衛兵に、皇太子様の目の前に居たってだけで取っ捕まって広場で公開拷問されてたんだ。酷いもんだろ?」


  (何だよその屑皇太子! たかがそんなんで公開拷問とか頭おかしいんじゃないか!)


「酷いなんてもんじゃない。そんな奴らは1回滅びたほうがいい! 絶対!」


  そんな会話をしながら、出発した。





  ~3時間後~

 

「この廃村にこんな登山道が有ったなんて………」


「登山道とは言っても整備とかされてないから道は悪いけどな」


「まあ、ここしかないから仕方ないですよ」


 こうして、僕たちの王国への長い旅が始まった。

 

 


 

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