終章 結華たちと特別病室で再会・その1
「目をあけるまで、三、二、一」
気がついたら白い天井が見えた。身体を起こすと、学生服姿のマーティが見降ろしている。俺の身体は腕や胸にいろいろチューブがついていた。それが隣の機械につながっている。たぶん生命維持装置だろう。これは相当にやばかったんだな。
「起きましたね。おはようございます。ではなくて、こんばんは」
マーティは、俺とふたりきりのときの話し方で声をかけてきた。ほかに人はいないらしい。
「ここは?」
「サイボーグセンターの特別病室です。人造人間用のスタッフも集まって、大変だったんですよ。私もいろいろ手伝いましたから。しばらくは絶対安静だそうです」
「そりゃ、迷惑をかけてすまなかったな」
「ところで、どこまで覚えてますか?」
「港で喧嘩して、結華と話をして、それから倒れたあたりだけど」
「じゃ、全部ですね。記憶の欠落はないみたいでよかったです」
「そうか。あれからどれくらい経ったんだ?」
「丸一日です」
「へえ」
俺はチューブのつながっている両腕を見た。ちゃんと生体組織で覆われている。俺の横でマーティがほほえんだ。
「大丈夫です。それ、雁田シリーズじゃなくて、ちゃんとした羽佐間シリーズの腕ですから」
「ふうん。――よくスペアがあったな。不死区にいる羽佐間シリーズなんて、俺だけだと思ってたのに」
「本土から緊急にとり寄せたんですよ。大道寺様が、慶一郎さんの腕が感田シリーズの代用だなんて我慢できない。完全に元に戻すって無茶言って、特例で、ワイバーン宅配便を羽田空港まで直行させたそうです。当局の人たちも驚いたでしょうね」
「そりゃ、TVのニュースになったろうな。で、その結華は?」
「まだエクス学園で授業を受けてますよ。私は早引けしたからここにいますけど。少ししたら、らみかちゃんと一緒にくると思います」
「そうか」
返事をしてから、あらためて俺はマーティを見た。
「らみかちゃんって誰だ?」
「アンディードのことですよ。逃亡してからは、そういう名前で通してたんですって。で、大道寺様が、そういうことなら、これからはその名前で生活しなさいって言って。そもそも、アンディードはホムンクルスのシリーズの名前で、個人名じゃありませんから」
「なるほど。それはいいけど、ラミネートカードみたいな名前だな」
「カーミラって女性吸血鬼が、ミラーカとかマーカラとか、いろいろ偽名を使って生活していたから、それを参考にしたそうですよ」
「ふうん」
世のなか、知らないことばかりである。
「それで、立場的には?」
「ダンピールのメイド兼コンパニオンとして雇用するそうです」
「そうか。――は? ちょっとストップ。メイドはいいとして、コンパニオンって、大企業が、何か新製品をつくって発表するときにでてくる、いろいろ説明してくれる、頭のいい女の人のことか?」
「あ、それじゃなくて、旧世紀の、貴族の女性の、ガールズトークの相手になる職業だったみたいですよ。いまはすたれちゃったけど、そういう立場になってもらうって言ってました。だから、まあ、喋っていいメイドってことですね」
「へえ、本当のメイドって喋っちゃいけなかったのか」
「基本はそうだったらしいですね。実際のメイドって、レディースメイドとかパーラーメイドとか、いろんな種類があったそうですから、例外もあったと思いますけど。あと、小学部に登校もさせるみたいです。逮捕されたあとの保釈金とか、昏睡状態の被害者の慰謝料とか、給付される輸血パックとか、そのへんの問題は全部クリアしてますから」
「そりゃよかった。一件落着だな」
俺はほっとした。――それから一時間ほどして、本当に結華と、アンディード――ならぬ、らみかと、そして由真がきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます