けものフレンズA
やまうずら
第0話 流れゆく雲を見つめて
「まずこの島に総合動物園と巨大都市群が形成されるに至った経緯を説明しよう」
そう言うと教授はチョークを持って黒板に向かった。
「えーまずこの島―アトランティカについて説明しよう。大西洋上に浮かぶこの島が長きにわたってアメリカ、メキシコ、およびヨーロッパ諸国の間における領土問題を引き起こしてきたことは君たちも知っている通りだ。そこで19XX年、NAFTA加盟国とEU加盟国との間でこの島をどの国にも属さない島とすることを決定した、これがアトランティカ条約、この島がアトランティカと名付けられたのもその時だ。」
カンカンカンと教授が黒板に文字を書いていく。
「その後、太平洋上の例の島の総合動物園―ジャパリパークにおけるアニマルガールの誕生に伴い、ジャパリパークが種の保存目的で使えなくなることが危惧されたことをきっかけに、この島を第二ジャパリパークとして活用するために整備することが国連で定められた、これをボールデン協定という―20XX年だ。」
教授が黒板に年表を作ってゆく。
「その後、総合動物園の建設はアメリカが主体となって進められることが決定し、総合動物園の名前が『アメリパーク』に決定した。そして協定から15年、この島の火山と太陽光による発電による総合動物園の施設の稼働、そして多くの動物の導入が進んだ時、あの事件が起こった―だれかこの事件について簡潔に説明してくれる者―」
やばい!
私は必死に目線をそらす、しかし周りが皆心地よい眠りについている中(わかりきった歴史を聞かされることほど退屈なことってある?)きょろきょろする私の姿はかえって教授の目についたらしい。
「あーじゃあそこの赤毛でメガネの君―そう君だ。名前と学籍番号を言ってから、答えてくれ。」
仕方ないか…
赤毛のメガネはおとなしく立ち上がる。
「207810035、ミランダ・ミラーです。えーと、その時起きたのが、ラロッカ事件で、アメリパーク中央のビクター火山から大量のサンドスターが噴出、島にいた動物たちのうち、単独の個体について6割がアニマルガール化し、また、サンドスターの気候調整作用によって島が熱帯から寒帯までの気候に分割された―以上です。」
「はい、えー、その通り。そのラロッカ事件をきっかけに、アメリパークを取り巻く環境は一変した。動物の保護区として、サンドスターが入らないようにしたドームを各エリアに建設、また、事件から7年後、島の周りにアニマルガールと暮らすための都市及び住宅群を形成すべくEUを主体として120のメガフロートによる都市群が島の周辺につくられた。このメガフロートによる人口造成部をまとめて『アトラス』という。」
教授黒板に六角形の島の絵を描く。教授の絵が下手だからではなく、実際にこの島は六角形をしている。飛行機で訪れる人は皆、その整然としたたたずまいと、絶海に浮かぶ巨大な人工物という存在に時に感動し、時に得体のしれない恐怖を抱くという。
「アトラスがメガフロート方式で建造された理由についてわかるものはいるか―――」
またまたやばい!
私だって学習はする。こんどは突っ伏して寝たふりをした…あれ、だんだん眠たくなってきた…
誰かが立ち上がる音が聞こえた。よかった。当たらずに済んだ…
そんなことを考えているうちに私は深い眠りに落ちていく。
眠りに落ちる前に一言、こう聞こえた。
「セルリアン――」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私が目を覚ましたのは終業のベルが鳴ってからだった。
手にはぐちゃぐちゃのノート。
「はあ…」
とぼとぼと次の教室へ向かう。次はアニマルガール発生理論、これもまた知ってることばかりの退屈な授業だ。
なんでそんなつまらない授業ばっかとってるのかって?
理由は簡単、二週間後に控えた研修のためだ。
私の通うセントラルシティ大学では毎年、2年生になるのを控えた1年生のうちから抽選で30人だけ、夏休みを使って1か月の早期研修に行けることになっている。その予習のためにほかの人よりも多くの授業をとらなくてはならないのだ。
抽選が当たってラッキーだったかって?
今の時点ではNO、”研修のための基礎知識の再確認”とか言っていろんな授業をとらされる。わかりきったことを教え込まれるのは正直、つらい。
でも、研修が楽しみなのは確かだ、アニマルガールと1か月の間、一緒にパーク中のいたるところを探検できる。いいレポートを出せば、単位がもらえる。憧れの長官にも会えるかもしれない。
「よし…」
私は足取りを早め、次の教室へ向かう。
廊下の窓から整然とした街並みのスカイラインと青空に浮かぶ入道雲が見えた。
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