第188話 超合金
冒険者(サラリーマン)にとって装備は重要だ。
装備を蔑ろにすれば、いざというときに、思わぬ失敗をしてしまう。
ゆえに、日々の手入れは怠らないし、より良い装備を手に入れようとする。
では、より良い装備とは何であろうか。
新しい道具。
高度な機械。
そういったものも条件の1つではあるだろう。
だが、新しいからと言って、良い道具だとは限らない。
古くから使われているものの方が、信頼性が高いこともある。
それに、高度な機械でも脆ければ意味がない。
落としただけで破損する装備など役に立たない。
信頼に値する古さ。
硬度の高い素材。
つまり、そういうものも重要なのだ。
そして、それらの条件を満たすものを、冒険者|(サラリーマン)は大切にする。
数が少なく、手に入れづらいものであれば、なおさらだ。
例えば、古代文明が造ったと言われ、現代の技術では再現できない、賢者の石。
例えば、希少な金属や特殊な加工で造った、超合金。
それらには実用性はもちろんの事ながら、浪漫がある。
ただ金を払えば、手に入るというものではない。
「あ、しまった」
カシャン!
手を離れる瞬間に指先の間隔で気づいたが遅かった。
大切に取っておいたソレが、吸い込まれてしまった。
カチャカチャ!
慌てて取り戻そうとするが、戻ってきたのは似て非なるものだった。
「あーあ・・・・・」
後悔が襲ってくるが、どうしようもない。
落ち込みながら、その場を後にした。
☆★☆★☆★☆★☆★
「はぁ」
溜息が漏れる。
失敗してしまった。
お守り代わりに財布に入れていたのが悪かったのだろう。
「どうかしたんですか?なんだか、落ち込んでますけど」
こちらの様子に気づいて、魔法使い(PG:女)が声をかけてくる。
未だにショックが抜けきらないせいか、反射的に口を開いてしまう。
「間違って、アレを自販機に入れちゃったんだ」
「アレって何ですか?」
「ほら、アレ。ギザギザの・・・・・」
「ああ、50円玉ですか?」
「そうじゃなくて、10円玉の・・・・・」
「?」
どうしたことだろう。
ここまで言えば、ショックを受けた原因を分かってもらえると思ったのだが、反応が鈍い。
「えっと・・・・・偽造硬貨ですか?」
「違う違う。ギザ10だよ」
「?」
その反応を見て、事態の深刻さに気付いた。
ショックを受けている場合ではない。
もしかして・・・・・
「ギザ10を知らない?」
「はい。なんですか、それ?」
衝撃の事実が判明した。
そんなバカな。
アレは誰もが求めてやまないもののはずだ。
偶然の巡り合わせで手元にやってくれば、誰でも浪漫を感じるはずのものだ。
「周りがギザギザになっている10円玉のことなんだけど」
「新しく発行された硬貨ですか?」
「逆だよ。昔、発行されていた硬貨なんだ」
「へぇ」
「・・・・・」
「・・・・・」
なんだろう。
せっかく説明したのに、まだ反応が鈍い。
もしかして、アレの浪漫が分からないのだろうか。
まさか、そんなことは無いと思うが。
「えっと・・・・・骨董品として売れば価値があるとか?古い貨幣には、そういうものもあるって聞いたことがありますけど」
「10円以上の価値はないかな。自販機でたまに出てくるし。以前より出てくる確率は低くなっているけど」
「へぇ」
「・・・・・」
「・・・・・」
価値ではない。
浪漫だ。
あり得ないほど低い確率が起きる幸運。
それは奇跡と呼んでもいいのではないだろうか。
その証拠であるアレは、浪漫と呼んで差し支えないだろう。
と思うのだが。
「何で落ち込んでたんですか?」
「・・・・・ギザ10を間違って使っちゃったから」
「10円以上の価値は無いんですよね?」
「・・・・・そうだね」
「たまに手に入るんですよね」
「・・・・・1年に1回くらいは見かけるかな」
「・・・・・」
「・・・・・」
「何で落ち込んでたんですか?」
浪漫は理屈で考えちゃいけない。
感じるものだ。
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