第186話 変形合体

 冒険者(サラリーマン)は、ダンジョン(客先)を踏破し、モンスター(お客様)と戦闘を繰り広げる。

 それを可能とするのは、日々のたゆまぬ鍛錬のたまものである。

 しかし、冒険者(サラリーマン)とて人間だ。

 一人でできることは限られている。

 ならば、どうするか。

 仲間たちと協力するのだ。

 一人では不可能なことでも、複数人であれば可能となる。

 1×1が2にも3にもなる・・・・・とは言わないが、できることの幅が広がることは確かだ。


 では、一人ではできることを増やすことはできないのだろうか。

 それは、また違う。

 装備を工夫し、組み合わせることでも、可能である。

 ただ単に数を増やすだけではダメだ。

 できないことを補うための創意工夫が必要なのだ。

 それにより、戦闘能力(作業効率)が格段に向上する。


 カタカタカタカタ・・・・・。


 例えば、文章を書くのに絵筆を使った場合はどうだろう。

 書けなくはないが、書きづらいのではないだろうか。

 文字は太くなるし、頻繁に絵具をつけなければならない。


 カチ・・・・・カチ・・・・・。


 例えば、大根を切るのに果物ナイフを使った場合はどうだろう。

 切れなくはないが、切りづらいのではないだろうか。

 刃が短く、一度で輪切りにすることはできない。


「なんだか・・・・・凄いですね」


 魔法使い(PG:ベテラン)の作業風景を見て、そんな感想が漏れた。


☆★☆★☆★☆★☆★


「ん?なにが?」


 魔法使い(PG:ベテラン)が何のことか分からないといった感じで反応を返してくる。

 彼くらいのベテランになると、この程度の工夫は当たり前ということだろうか。


「その・・・・・周辺環境が」


 彼の手元には魔法の杖(スマートフォン)があった。

 通常、魔法の杖(スマートフォン)は、それ単独であらゆることができる。

 しかし、それはできるというだけだ。

 効率が良いということと、イコールではない。


「今度のプロジェクトはスマホアプリの開発なんだが、直接操作しようとすると色々面倒だからな」


 そう言って、キーボードを叩く。

 外付けだ。


「スマホの文字入力って、時間がかかりますよね」


 自分にも覚えがあるので同意する。

 もちろん、習熟度というものはある。

 訓練によって、ある程度は速度を向上させることはできるだろう。

 だが、物理的な限界というものは存在する。

 キーボードで打つ速度には敵わない。


「スマホって、マウスも使えたんですね」


 気になって、それについても尋ねてみる。


「指で押しづらいときに便利だぞ。画面も汚れないし」


 なるほど。

 納得のいく理由ではある。

 しかし、指で押しづらいというのは、そもそもアプリの出来が良くないということではないだろうか。

 まあ、そういうものを使うしか選択肢がないときもあるのだろう。

 クエスト(お仕事)で理不尽なことに耐えなければならないのは、よくあることではある。


 ここまではいい。

 ここまでは操作性の問題だ。

 それに対して対策をおこなうのは分かる。

 効率が段違いに上がるだろう。

 問題は次だ。


「ディスプレイ出力すると、スマホ画面も見やすいですね」


 それは、間違いなく本心だ。

 確かにそう思う。

 思うのだが、なんだろう。

 なにかが釈然としない。


「スマホって画面見づらいしな」


 物理的に小さいのだから、それは事実なのだろう。

 小さい画面に表示するための工夫もされているので、見づらいとまでは言わないが、大小で比較すれば優劣は明らかだ。

 しかし、魔法の杖(スマートフォン)というものは、小さい本体にあらゆる機能を搭載するために、操作性や表示方法などが創意工夫された、いわば芸術品なのだ。

 使いやすい環境を追求して周辺機器を接続しまくった結果、その芸術性が見事なまでに意味を成さなくなっている。


「なんかもう、そこまでいくと、パソコンと変わらないですね」


 というか、そんな使い方で開発していると、ユーザーの使い勝手とか分からないのではないだろうか。


「一体型の分だけノートパソコンの方が便利な気がする。電話機能の方を外付けにすればいいんだ」


 本末転倒だ。

 いや、同意したいところもあるが。


「それじゃあ、あまり作業の邪魔をしても申し訳ないので、これで」

「ああ」


 合体は浪漫ということだろう。

 理屈とかを考えてはいけない。

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