第127話 猫の細道(視点変更)

 わたしは誇り高き狩猟種族。

 狙った獲物は逃さない。


 ひたひたひた。


 今日も獲物を求めて散策中。

 でも、わたしが狩るのは小動物なんて小さい獲物じゃないわ。

 男よ。


 ひたひたひた。


 男はみんな、わたしの虜。

 貢物を捧げる下僕よ。


 ひたひたひた。


 でも、最近、ちょっと失敗しちゃった。

 火遊びのつもりだったのに、子供ができちゃったの。

 いくら発情期だからといっても、油断したわ。

 まあ、我が子ながら可愛いからいいんだけどね。


 ひたひたひた。


 そんなことを考えながら歩いていると、さっそく獲物を見つけたわ。

 でも、手強い獲物よ。

 何度が見かけたことがあるのだけど、そのたびに取り逃しているの。

 わたしの魅力になびかないなんて、逆に燃えるわ。


 ひたひたひた。


 今日こそ虜にしてあげる。

 わたしは獲物の前に姿を現した。


「にゃあ」


☆★☆★☆★☆★☆★


 わたしの姿に気づくと、その獲物は動きを止めた。

 警戒しているようね。

 わたしの魅力に揺らぎこうになっているくせに。


「にゃ」


 仕方がないから、こっちから行ってあげる。

 光栄に思いなさい。


 じりっ。


 こちらから近寄っているというのに、後ずさる獲物。

 まったく失礼しちゃうわ。

 でも、いい女は焦らないもの。

 持久戦と行きましょう。


「あの~」


 と思ったのだけど、邪魔が入ったわ。

 獲物の背後から別の女が近づいてきたみたい。


「先輩~?」


 女が獲物に話しかけているようね。

 でも、人の獲物を横取りしようなんて感心しないわ。


「にゃあ!」


 文句を言ってやるのだけれど気にした様子もない。

 まったく図太い女だわ。


 すりすり。


 どっか行きなさいよ。

 押しのけようとするのだけれど、一歩も引かないわね。

 はあ。

 仕方がないわ。

 しつこい女は嫌われるものね。


「にゃあ・・・」


 ここは引いてあげる。


☆★☆★☆★☆★☆★


 わたしは狩場を変えることにした。

 ここにいると、わたしの魅力にまいった男どもが貢物を持ってきてくれるの。

 でも、時間帯が悪いのかしら。

 あんまり獲物が来ないわね。

 まあいいわ。

 のんびり待ちましょう。


「やっぱり~」


 と思ったのだけど、またもや邪魔者がきたわ。


「・・・・・にゃあ」


 また、あなたなの。

 しかも、頭にくることに、わたしが狙っていた獲物と連れ立って歩いているわ。


「にゃあ!」


 何度、邪魔をすれば気がすむの。


「どうしてこちらに~?」

「にゃあ」


 あなたに獲物を取られたからよ。

 それでなくても、今日はいつもの狩場に獲物が少なかったっていうのに。


「今日は平日ですからね~。駅前は人が少ないと思いますよ~」

「にゃあ」


 だから、こうして代わりの獲物を捜しにきたんじゃない。


「それで喫茶店の前にきたんですか~。確かに休日は人が多いかも知れないですね~」

「にゃあ」


 悪いと思っているなら、貢物くらい持ってきなさいよ。

 こっちは子供に食事を持っていかないといけないから、大変なんだからね。


「ごめんなさい~。これから入るところだから、なにも持っていないんですよ~」

「にゃあ」


 仕方ないわね。

 目ざわりだから、早く別の場所に行きなさいよ。


 そう言ってやると、獲物と女は連れ立って建物の中に入っていった。

 まったくもう、調子が狂っちゃうわ。


☆★☆★☆★☆★☆★


 それから、何度か獲物から貢物を貰って、少しは苛立ちも落ち着いてきた。

 そういえば、さっきの獲物と女は、まだ出てこないわね。

 知り合いみたいだったけど、もしかして、つがいだったのかしら。

 だとしたら、悪いことをしたかも知れないわね。

 よく考えてみたら、わたしも大人げなかったわ。


 子供に食事も持っていかなきゃいけないし、今日はもう帰りましょう。

 水の干上がった水路を通って、子供のもとへ向かう。

 この道は、狩場から狩場へ移動するのに便利だから、よく使っているの。


「にゃあ」


 あら?

 子供のもとへ向かう途中で、いったん地上へ出ると、例の獲物に出会ったわ。

 今は、つがいとは別行動みたいね。


「にゃあ」


 まったく。

 わたしを振ったのだから、しっかり、つがいを捉まえておきなさいよね。

 女に恥をかかせるんじゃないわよ。


 それだけ言って、わたしは再び水路に潜る。

 可愛い我が子の顔を思い浮かべながら走っていると、わたしになびかなかった獲物のことは、すっかり頭から消え去っていた。

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