第120話 旅の名残
長期休暇を終え、ギルド(会社)へ集結した冒険者(サラリーマン)たち。
そこで行われるのは物々交換だ。
現代社会において、物資の交換は貨幣を介して行われるのが主流だ。
だが、それで全てが手に入るわけではない。
例えば、遠隔地の物資の中には、現地に行かないと入手できないものもある。
召喚の儀式(お取り寄せ)により、手に入れやすくなったとはいえ、召喚に応じないものもある。
ではどうするか?
単純に思いつくのは自らの足で、現地に向かうことだ。
だが、これは効率が悪い。
例えば、錬金術師(料理人)は、北にある植物と南にある動物をかけ合わせて、新たな存在(料理)へと昇華させることがある。
そのために、毎回現地に向かうのは現実的ではない。
後者を手に入れる頃には、前者は腐り果てているだろう。
回避手段はいくつかある。
例えば、長期保存に耐えられるように加工する。
だが、これは品物が限定される。
例えば、専属契約を結んで召喚(輸送)に応じてもらう。
これが一番現実的だろうか。
最終手段として、自らの手で育てることにする。
道を極めんとする者(こだわりの料理人)には、稀にそういう者もいる。
しかし、冒険者(サラリーマン)には、日々モンスター(お客様)と戦い、クエスト(お仕事)を達成するという使命がある。
それらの手段は取りづらい。
ではどうするか?
頼むのだ。
ただし、頼み方にも様々な方法がある。
1つは、
『XXさん、YYに行くんだー。じゃあ、お土産にZZをお願いー』
という頭の悪そうな呪文を唱え、旅人に呪いをかける方法だ。
だが、この方法の場合、呪いをかけられた旅人は、品物を探すために行動に縛りが発生し、旅の間中、おもりを持ち歩くことになる。
だから、良識のある冒険者(サラリーマン)は、この方法は取らない。
取るのはもう1つの方法、物々交換だ。
自らが旅先で手に入れたものを対価に、相手が旅先で手に入れたものを受け取る。
等価交換ではないのだ。
損得で考えてはいけない。
ときには価値が低い品物に変わることもあるだろう。
だが稀に、わらしべ長者のごとく、高価値な品物に変わることもある。
サプライズを楽しむのだ。
「たこ焼き煎餅です」
「お好み焼き煎餅です」
「もんじゃ焼き煎餅です~」
ゴールデンウィークが終わって最初の出勤日。
お土産を配って回った。
☆★☆★☆★☆★☆★
「あ、どうも」
魔法使い(PG:女)、自分、後輩が順番に渡したお土産を前に、魔法使い(PG:男)が困惑した表情をしている。
いや、言いたいことは分かる。
だから、先回りして言った。
「味の違いを楽しんでください」
「は、はぁ・・・」
別に狙ったわけではない。
お土産が似た物になったのは、たまたまだ。
これでも、一応、同じものにならないようにしたのだ。
同じ場所に行ったので、それは注意した。
しかし、旅先が一目で分かるお土産というのは意外と難しい。
旅先の名前が入っているだけで、どこでも買えるような菓子類。
保存がきくように加工され、微妙にかさばる瓶や缶に詰められた産地の食品類。
味は良いが、普通に通販で買える品々。
それを避けると、自然とああなった。
一応、旅先がイメージできて、味もそれっぽくなっているはずだ。
「それでは、こちらからは、これを」
魔法使い(PG:男)も特に文句を言うことはなく、自分のお土産を渡してきた。
「京都ですか」
「はい」
京都か。
修学旅行で行ったが、定番のお土産が多く、選ぶのには困らなかった記憶がある。
「湯豆腐とか美味しいですよね」
「確かお茶漬けが美味しいんですよね~」
魔法使い(PG:女)と後輩が同時に言う。
「えっと・・・はい」
一瞬、迷ってから魔法使い(PG:男)が答える。
迷った理由はなんとなく分かる。
湯豆腐は納得できるが、お茶漬けは例の話と混ざっているような気がする。
もっとも、例の話は実際の日常生活で使われることは無いと聞くし、京都は漬物も美味しいから、あながち間違いではないので、否定もできないところではあるが。
そんな旅先の話で盛り上がるのも、お土産のうちだろう。
しばし、雑談した後、クエスト(仕事)を開始した。
☆★☆★☆★☆★☆★
「おはよう!」
そんな挨拶をしながら昼休み頃に出勤してきたのは課長だ。
もう少ししたら、魔法使い(PG:ベテラン)も出勤してくるだろう。
二人ともブルーマンデー(青い月曜日)にやられたらしく、午前中は出てこなかった。
「お!誰かのお土産かな?」
そう言って、机の上に置かれたお土産を見つける。
だが、土産話で盛り上がるタイミングは終わっている。
特に声は上がらない。
「ありがとう。いただくよ」
ぺこっ。
ぺこっ。
ぺこっ。
ぺこっ。
軽く頭を下げて、反応を返す。
ぽりっ・・・
なんとなく寂しそうに、課長は煎餅に噛り付いた。
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