第117話 刃の向く先

 ズダン!


 叩きつけるように振るわれた刃が、肉を断ち斬る。


 ズダン!ズダン!ズダン!


 憎しみを込めるように、何度も何度も振るわれる。

 押し返すような肉の感触だけが、唯一の抵抗だ。

 まさに、まな板の鯉。

 それ以外の抵抗は許されない。

 そして、その抵抗も次第に弱くなっていく。

 刃が振るわれるたびに細切れになっていく肉片。


 ダン!ダン!ダン!


 しかし、刃を叩きつけることを止めない。

 もはや、細切れとも呼べない。

 ところどころミンチになった肉片。

 だが、それでも刃は止めない。


 ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!


 恨みを晴らすかのように、刃を振るい続ける。

 まんべんなく叩きつけられる刃。

 やがて、肉の海のごとくベタッとしたソレを見て、断罪者はようやく刃を止める。


 ベチャ!


 ペースト状に成り果てた肉の塊。

 ソレをかき集めて1つにする。


 バサッ!バサッ!


 追い打ちをかけるように様々なものを上からかぶせていく。

 色とりどりのそれらが、唯一のはなむけだろうか。


 ぐちゅ・・・ぐちゅ・・・


 しかし、断罪者はそれすらも許さない。

 ぐちゃぐちゃに混ぜられ、華やかな元の色は見る影もなくなる。

 そこまでして、ようやく気が済んだのか、断罪者は一息つくように手を止めた。


☆★☆★☆★☆★☆★


「あのさ・・・」


 ズダン!


「なに?」


 ズダン!ズダン!ズダン!


「買い直してくればいいと思うんだ」


 ダン!ダン!ダン!


「別に間違えたわけじゃないよ」


 ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!


「ミンチから手作りした方がおいしそうでしょ?テレビでハンバーグをミンチから作るのをやってた」


 ベチャ!


「なにつくるんだっけ?」


 バサッ!バサッ!


「焼き餃子、それと醤油ラーメン」


 バサッ!バサッ!


「ハンバーグならわかるけど、餃子だと大き目の欠片が残っていると、皮に包みづらくないかな」


 ぐちゅ・・・ぐちゅ・・・


「大丈夫だって!はい、お兄ちゃんも包むの手伝って♪」


 プチデビル(女子高生)は、そう言って包丁の先をこちらに向けてきた。


「刃物を人に向けるなよ」


☆★☆★☆★☆★☆★


「料理の練習しているから、感想をきかせて」


 そう言って押しかけてきたのは、ゴールデンウィークの後半。


「いいけど、なに作るんだ?」

「和食」


 料理の腕は練習の必要がないように見えたが、作り進めるうちに分かった。

 新しい料理の練習をしているということなのだろう。

 妙なところで作り方にこだわりがあった。


「ところでさ」


 パリッ・・・じゅわぁ・・・


 悔しいが旨い。

 焼き餃子の香ばしい皮の中に、たまに肉の食感が残っているところが、たまらない。


「なに?」


 ちゅるちゅる・・・


 醤油ラーメンからも、煮干しから取った出汁の、よい香りが漂ってくる。

 それに文句はない。


「焼き餃子と醤油ラーメンって和食かな?」

「中国は水餃子や蒸し餃子が主流で、焼き餃子が広まっているのは日本だって」

「それは知っているけど」

「ラーメンも発祥は中国かも知れないけど、醤油と味噌を使っていれば日本のものでしょ」

「それに異論もないけど」


 日本の料理=和食かな?

 和食の料理人に怒られるような気がする。


「それで感想は?」

「チェーン店よりは上かな」

「♪」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る