第115話 未来視

「それで、お兄ちゃん、ゴールデンウィークの予定は?」

「いや、まだ決めてないけど」

「お姉さんたちと泊りがけで旅行とかは・・・」

「行かないけど」

「なんで!?」

「いや、なんでと言われても」


 プチデビル(女子高生)からの進路相談(?)を受けた後、そのまま雑談に突入した。

 話題はもうすぐ訪れるゴールデンウィークについてだ。


「こういうときに進展させないでどうするの!?」

「進展と言われても」


 職場で仲の良い先輩後輩なので、旅行に行くことはあるだろう。

 だが、期待されているような展開はないと思う。

 それに進展を期待しているなら、『たち』を前提としているのは、おかしいだろう。

 もしかして、期待している進展は、修羅場とかそういった方面なのだろうか。


「それにな。こういうタイミングに限って、追加の仕事が発生して、休出する破目になるんだよ。予定なんて立てられない」

「えー?お姉さんたちも?」

「IT業界を舐めるなよ。良い方面でも悪い方面でも男女平等だ」


 この業界は、昇進に男女で差が出ることは無い。

 その代わり、徹夜だろうが休出だろうが、男女の違いは関係ない。


「会社員は大変だねー」

「人生を売って生活費を稼ぐのがサラリーマンだ」


 技術を売るのではない。

 技術があるのは前提だ。

 売るのは人生の時間だ。


 冒険者(サラリーマン)は、ハードボイルドでないと務まらない。

 ときに自分に、ときに部下に、冷酷な命令(残業指示)をしなければならないこともある。


「わたしも一流のニートを進路希望にしたくなってきた」

「そっちの方が失敗したときに逃げ道が無いけどな」


 よりハードボイルドな世界だ。

 冒険者(サラリーマン)には、圧制(横暴な上司)に対する革命権(転属、転職)がある。

 だが、ギルド(会社)に所属しない彷徨者(ニート)に、その権利はない。

 彷徨者(ニート)の道は茨の道だ。


「まあ、ともかく。そんなわけで、予定は決まっていない」

「ふーん・・・・・・・・・・でもね、お兄ちゃん」


 プチデビル(女子高生)は、珍しく会話の最中にスマホを操作していたかと思うと、ふいに不敵な笑みを浮かべた。


「きっと、すぐに予定は埋まると思うよ」

「?」


 そして、そんなことを言ってきた。


「具体的には明日くらいに」


 その視線はまるで未来を見通しているかのように自信に満ちていた。


☆★☆★☆★☆★☆★


「仕様変更・・・ですか」


 次の日。

 課長が臨時の打ち合わせを開いた。

 朝、モンスター(お客様)から遠隔攻撃(電話連絡)があったらしい。


「ゴールデンウィーク直前に連絡してきたのは、絶対狙ってますね」

「まあ、そうだろうな」


 こちらの推測を否定はしてこなかった。

 やはり、そうか。

 この時期に特有のモンスター攻撃(自分たちが休み中にやっておいて)だ。


「それで、どんな変更なんですか?」


 課長が説明する。

 魔法使い(PG:ベテラン)が、さっそく攻撃(仕様変更)を分析し始めた。

 犠牲(休出)を覚悟で対処するつもりのようだ。


「ゴールデンウィークに3日ほど休出すれば対応できます」


 そんなことを言い出した。

 他の人間の都合を聞く気は無いようだ。

 モンスター(お客様)から攻撃(依頼)があれば、対処するのが当然と思っているようだ。


「いや、ゴールデンウィーク後からでないと対応できないと回答済みだ」


 キラン!


 そういうと課長はニヒルな笑みを見せる。


『(カッケェ!)』


 打ち合わせに出ている人間の心が1つになる。

 思わずスラングが出てしまうくらい恰好よかった。

 部下に不安を与えることなく、一番の難関は解決済みとは。


「・・・早めに対応しないと、お客様からの印象が悪くなりませんか?」


 どうも1人だけ心が1つになりきれていなかったようだ。

 魔法使い(PG:ベテラン)が、そんなことを言い出す。

 だが、緊急度にもよるが、その意見に一理あるのも確かだ。


「ゴールデンウィーク中では不明点が出てきたときに問い合わせもできないだろう。休み前から開始して、休み明けに進捗がなかったり、仕様が間違っていた方が印象が悪くなる」


 やはり、課長の方が一枚上手だ。

 単純に規模だけでなく、周囲の状況にまで目が行き届いている。


「それに、もちろん、お客様と電話したときは別の言い方をしたよ。ゴールデンウィーク直後からなら対応できます・・・とね」


 キラン!


 再びニヒルに笑う課長。


『(パネェ!)』


 またもやスラングが出てしまうくらい完璧だ。

 ちょっとした違いだが、このような心理戦は、後々の戦況に影響することがある。

 そのような細かいところも、浮かれて見落とすことなく、対策済だった。


「打ち合わせは、ゴールデンウィーク直後から開始できるように、体制やスケジュールを相談したかったからなんだ」


 妙にモチベーションが高かったからだろうか。

 打ち合わせは順調に終わった。


☆★☆★☆★☆★☆★


「先輩、行き先の希望はありますか~?」


 打ち合わせが終わったとたん、後輩からそんなことを言われた。


「え?なんの?」

「旅行の行き先です~」


 どうも自分も行くことは決定しているようだ。

 別にいいけど。


「ゴールデンウィークの予定は無いんですよね」


 魔法使い(PG:女)まで、そんなことを言い出した。

 予定を言ったかな?

 家族にしか言った覚えはないのだが。


「・・・はっ!」


 思い出すのはプチデビル(女子高生)の言葉だ。

 彼女と話したのは昨日。

 昨日からしたら今日は明日だ。


 ・・・予知能力?

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