第112話 超能力

 剣(ノートPC)や魔法(プログラミング)を使いこなす冒険者(サラリーマン)。

 モンスター(お客様)と戦うためには必須の能力だ。

 しかし、世界には剣や魔法以外にも、特殊な能力が存在する。


 科学で解析しようとするものの、いまだ解明されていない。

 ある意味、宇宙や海底よりも、人類の力が及ばぬ領域。

 多種多様に渡り、ときには用途が分からないものもある。

 誰もが知るが、使えるものは、ほとんどいない。

 いわゆる超能力である。


「ロマンがありますよね~」


 後輩と話している。


「それには同感だけど」


 子供の頃は特集の番組があれば、欠かさず見ていた。

 そういえば、最近は番組自体が、あまり無いような気がする。

 国家権力の圧力がかかったか、もしくは、視聴率が取れないかの、どちらかだろう。


「でも、もう料理と関係ないですよね」


 魔法使い(PG:女)は諦観したような表情で、それを見ている。


「でも、おいしそうだよ~」


 後輩は、それに行く気のようだ。


「ダシは出ているだろうな。でも、どうしようかな」


 行くには覚悟が必要だ。

 生半可な覚悟では返り討ちにされるだろう。


「わたしは定食にします」


 魔法使いとしての矜持だろうか。

 いつもは後輩と合わせることが多い魔法使い(PG:女)だが、今日は別の道を歩むようだ。


「挑戦してみよう」


 冒険者として、冒険から逃げるわけにはいかない。

 それに行くことにした。


 会社の食堂名物、特別メニュー。


『これであなたも超能力者!スプーンも曲がる脅威の硬さ!!スルメ、タコ、軟骨が満載!!!あんかけかた焼きそば』


 そう書かれていた。


☆★☆★☆★☆★☆★


「どうですか?」


 選択しなかったとはいえ、興味はあるようだ。

 魔法使い(PG:女)が尋ねてくる。


「・・・ダシはおいしいよ」


 スルメのダシが良く出ている。

 タコも単なる生に火を通したものではない。

 おそらく干物を水で戻したのだろう。

 茹でただけでは出ないダシが出ている。

 異なるダシが混ざり合い、味に深みを出している。


「食感もいいですね~」


 後輩は気に入ったようだ。

 時折、骨を噛み砕く音が、彼女の口のあたりから聞こえてくる。

 軟骨だろう。


「まあ・・・悪くはないけど」


 実際、うまくできてはいるのだ。

 普通のかた焼きそばであれば、食感を悪くするであろう軟骨であるが、この料理だと話は別だ。

 スルメやタコといった強い弾力を返す食材の中にあって、良いアクセントになっている。


「でも、スプーンが曲がるほどではないですね~」


 昔テレビで見た超能力特集では、スプーン曲げが定番だった。

 今にして思えば、なんであれが超能力なのか、疑問に思う。

 あるいは、疑問に思わず受け入れていたこと自体が、超能力の効果なのかも知れない。

 集団催眠とか。


「焼きそばだからなぁ。そもそも箸で食べてるし」


 硬さを表現したかったのだろうが、特別メニューの謳い文句にしては中途半端だ。

 それ以前に、なぜ硬さを追求したくなったのか謎だが。


「それにしても、徹底して硬い食材ばかり使っていますね。あんかけって言うと、うずらの卵が楽しみなんですけど、入っていないみたいですし」

「代わり(?)に、素揚げしたサワガニがトッピングされているけどね」

「お酒の肴の定番ですね。あんかけ焼きそばに乗っているのは初めて見ました」


 味は悪くない。

 殻ごと食べると、小さい姿に似合わず、蟹の風味が豊かだ。


「顎が疲れてきた」


 それだけが問題だ。

 味は良く後を引くのだが、なにせこの硬さだ。

 しかし、歯を痛めるほどではないので、残そうとも思えない。

 計算されつくされており、料理人の技術力の高さが伺える。

 できれば別の方向で技術力を発揮して欲しかったが。


「あとはプリンです~」


 自分が3分の2ほど食べたタイミングで、後輩があんかけ焼きそばを食べきったようだ。

 たまに思うのだが、彼女の顎の強さはどうなっているのだろう。

 噛まずに飲み込んでいるようにも見えないが。


 パキンッ!


 そんなことを考えていると、甲高い何かが折れる音が聞こえてきた。


「スプーンが折れちゃいました~」


 見ると、後輩の手元にあるプラスチック製のスプーンが折れていた。


「プリンで?」


 疑問に思うが、それはすぐに解決した。

 仕方なく後輩が箸でプリンを食べて一言。


「これプリンじゃないですね~。芋ようかんです~」


 見た目は確実にプリンだ。

 その容器に入っている。

 だが、硬さはようかんなので、もろいプラスチック製のスプーンでは折れるのも無理はない。

 絶対、狙っているだろ、これ。


「超能力者になれましたかね~」


 そんな言葉で後輩が食事を終えた。

 その日、食べ終わるのが一番遅いのは、自分だった。

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