第74話 残酷な童話

 むかしむかし、あるところに、オニ太郎とフク子という兄妹がいました。


 オニ太郎は、生まれついての強面と小心者の性格で、村人たちから避けられていました。

 大きな口で笑う顔は、小さな子供を丸呑みしそうに見えました。

 低い笑い声は、獣の唸り声のように響きました。


 一方のフク子は、愛らしい容姿と要領のよい性格で、村人たちから可愛がられていました。

 小さい口で笑う顔は、まわりの人間にも笑顔を誘いました。

 高い笑い声は、鈴が鳴るように響きました。


 正反対の兄と妹ですが、仲良く暮らしていました。


 しかし、ある年の冬、二人の暮らす村を飢饉が襲います。

 いつもは、恵みを与えてくれる畑も、今年は収穫がほとんどありません。

 この季節には、森の果実も採れず、川の魚も獲れません。

 このままでは、冬を越すことができません。

 二人は村人の家をまわり、食べ物を分けてくれるようにお願いをします。


「食べ物を分けてくれませんか」

「ひいっ!たべないでくれぇ!」

「いえ、あの・・・」


 オニ太郎に食べ物を分けてくれる村人はいませんでした。


「ねぇ、おじさん。食べ物を分けてくれなぁい?」

「お嬢ちゃん可愛いね。いいことさせてくれたら、分けてあげるよ」

「ありがとう!ちゅっ!・・・・・(ぺっ、ロリコンが!)」


 フク子に食べ物を分けてくれる村人はいましたが、兄の分が足りません。

 このままでは食べ物がなくて餓死してしまいます。

 フク子は、知恵を振り絞りました。


「ねぇ、おじさん。近くに鬼が出たらしいよ」

「なに!国家権力は何をやってる!高い税金を払っているんだから働けよ!」


 フク子は村人たちに話してまわります。


「ねぇ、おじさん。鬼は炒った豆をぶつけると逃げていくらしいよ」

「ちっ!豆を箸で摘まめない最近の若者かよ!バナナをフォークとナイフで食ってろ!」


 村人は豆を炒って鬼に備えました。


「ねぇ、おじさん。鬼は鰯を焼いた匂いが苦手らしいよ」

「けっ!魚の骨を取るのが苦手な最近の若者かよ!マグロの目玉だけ食ってろ!」


 村人は鰯を焼いて家の前に飾りました。


 夜。

 一度は断られましたが、フク子のために食べ物を手に入れたいオニ太郎は、再び村の家々を回ります。

 もともと強面のオニ太郎です。

 月明りが照らす姿は鬼そのものでした。


「鬼は外!」

「痛い!止めて!なんで、こんなことをするの!・・・ぐすっ」


 村人たちは力いっぱい豆を投げつけます。

 断られるだろうとは思っていましたが、物を投げられるとは思いませんでした。

 オニ太郎は、村人たちからの突然の仕打ちにしばらく耐えていましたが、たまらず逃げ出します。


 その姿を見て、鬼が逃げたと思い込んだ村人たちは、安心して家に帰り、その日は早くに眠りにつきました。


「くんくん」


 深夜。

 村人たちは灯りを消して眠りにつき、周囲は真っ暗です。

 ですが、周囲には香ばしい香りが漂っています。


「(ふっ、作戦通り!グッジョブ、お兄ちゃん!)」


 フク子は炒った豆と焼いた鰯を拾い集めます。


「ごめん。食べ物は分けてもらえなかったよ」


 家ではオニ太郎が落ち込んでいました。


「大丈夫」

「?」


 フク子の手には大量の豆と鰯が入った袋がありました。


「食べ物、ゲットしてきたよ」

「すごい!さすが、フク子!」


 オニ太郎とフク子の二人は、ひもじい思いをすることなく、冬を乗り切ることができました。


 一方、朝になったら豆と鰯を拾い集めようと考えていた村人は、豆と鰯が見当たらないことに首をかしげます。

 貴重な食べ物でしたが、鬼に食べられなかったのが不幸中の幸いと思って諦め、冬の間はひもじい思いをして過ごしました。


☆★☆★☆★☆★☆★


「めでたし、めでたし~」

「えーっと・・・なんの話だっけ?」


 昼休み。

 なにがきっかけかは忘れたが、話の流れで、後輩が昔話を始めた。


「ですから、節分ですよ~」

「節分って、そんな話だったっけ?というか、節分って昔話じゃないよな」

「あれ~?」


 最後まで聞いてみたのだが、どことなく納得いかない内容だ。


「兄は何も知らずに村人に物を投げられて、村人は騙されて食糧を奪われて・・・妹が容姿の良さを利用して、あくどいことをしている気がする」

「え~?でも、兄妹に食べ物を分けなかった村人にばちがあたるところが、昔話っぽくないですか~?」

「飢饉のときだし、村人もそんなに悪人じゃない気がするんだけど」


 大抵、こういった昔話には、教訓のようなものがあるものだ。


「結局、なにが言いたい話なんだっけ?」

「豆を投げる風習は間違いだから、投げずに食べようってことです~」


 やはり、何かが違う。


「・・・ちなみに、桃太郎って知ってる?」

「赤ん坊を桃に乗せて川に流す話ですよね~」

「う、うーん・・・」

「その子が動物を餌付けして、島に暮らしている鬼にけしかけて、金銀財宝を強奪するんですよね~」

「ストーリー的には間違っていないけど・・・」


 幼児虐待と強盗の話にしか聞こえない。


「桃は金銀財宝の価値があるから、よく味わって食べなさいって言われました~」


 自分が知っている内容と、かなり違う。

 これが時代の流れか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る