第75話 禁断の選択

 それは、本来なら、あり得ない邂逅だった。

 しかし、禁忌とされる組み合わせほど、得られる効果は大きい。


 ぞくり。


 扉を開けると、背筋を凍らせるような冷気を感じる。

 だが、ここで怯むわけにはいかない。


 すっ・・・


 恐る恐る手を伸ばす。

 ソレに触れるか触れないかのギリギリの距離まで近づける。


 キンッ!


 刺すような感覚が指先を痺れさせる。

 やはり、強烈だ。


 そっ・・・


 いったん、手を引き戻す。

 ここは慎重に選択しなければならない。


 きょろきょろ。


 しばし、視線を漂わす。

 選択肢は複数ある。


 くっ!


 こちらを惑わすソレらを前に、意志を強く保とうとする。

 時間はあまり残されていない。


 ガシッ・・・


 瞬間の判断。

 思い切って掴む。


 ほっ。


 先ほどよりは刺激が少ない。

 わずかに感じる冷気に耐えつつ、ソレを引き寄せる。


 パタン・・・


 すばやく扉を閉じる。

 いつまでも開いたままだと、周囲に多大は被害をまき散らしてしまう。


 カツカツ・・・


 もはや、この場に用はない。

 駆け出さないギリギリの速度で歩を進める。


「こちらへどうぞ」


 秘密結社(コンビニ)の構成員(店員)に導かれ、そちらに近づく。

 ちらりと、こちらに視線を向け、すぐに逸らす。

 馬鹿なことをしていると思われているのかも知れない。

 しかし、特に何も言ってこなかった。

 個人の責任において、自由にしろということだろうか。


「120円です」


 対価を渡し、ソレを手に入れる。

 これで取り引きは成立した。

 秘密結社(コンビニ)のアジトから出ようとする。


「あの」

「!」


 引き留める声に緊張感が走る。

 ゆっくりとした動作で振り返る。


「レシートです」

「どうも」


 契約が成立したことを証明する紙切れを受け取り、今度こそアジトを出る。

 ようやく自由だ。

 あとは自分の思う通りにできる。

 解放感を感じつつ、自らの居場所に帰っていった。


☆★☆★☆★☆★☆★


「先輩が昼休みにコンビニに行くなんて珍しいですね~。何を買ってきたんですか~?」

「なんだか甘いものが食べたくなって、アイス買ってきた。箱に6個入りのやつ」


 後輩に答えながら、自席に座る。


「あ~、最近、寒い冬に冷たいアイスを食べるのが流行っているみたいですね~」

「コタツに入りながら、冷たいアイスを食べると、なんだか幸せな気分になれるよ」

「へぇ~」


 エアコンではなく、あくまでコタツだ。

 ほてった身体を芯から冷ますアイス。

 寒い季節にあえて冷たいものを食べる贅沢。

 最高だ。

 会社でコタツは無理だが、それでも、ほんわかした気分になれる。


「最初はカップのアイスを買おうと思ったんだけど、さすがに冷たかったから、これにした」

「ちょっと割高ですけど、おいしいですよね~」

「1つ食べる?」

「いただきます~」


 付属の楊枝に刺して渡すと、嬉しそうに口に運ぶ。

 楊枝を返してもらい、自分も口に運ぶ。

 生きている悦びを感じる。


 さて、午後も仕事を頑張ろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る