第60話 真理
謎の儀式(朝礼)が終わると、いよいよクエスト(お仕事)の始まりだ。
とはいえ、今日はまだモンスターがいるダンジョン(お客様の会社)は休暇期間中だ。
それどころか、ギルド(自社)側でも課長が休暇中だ。
つまり、やることはあるが、急ぎのものはない。
「挨拶に行ってくるけど、一緒に行く?」
「行きます~」
後輩に声をかけて、パーティーメンバー(仕事仲間)のもとへ向かう。
☆★☆★☆★☆★☆★
『あけましておめでとうございます』
★見習い魔法使い(プログラマー:男性)×1が現れた★
★見習い魔法使い(プログラマー:女性)×1が現れた★
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます~」
挨拶を返す。
しかし、一人。姿が見えない。
魔法使い(プログラマー:男性)がいない。
「体調を崩したとかで、今日は休暇です」
「そうですか。こちらも課長が同じ理由で休暇中です」
理由が本当かどうかは、あやしいところだが。
だが、それを口に出すことはしない。
見習い魔法使いの二人を見ると、なにか含むものがあるような表情をしているが、同じく口に出したりはしない。
目と目で通じ合う。
この世界の真理は、だれもが知っているが、だれもが話題に上げることはない。
それが、この世界を生き抜くためのコツだ。
「?」
ちらりと後輩の方を見ると、不思議そうな表情をしている。
・・・・・
いや、いいのだ。
知らないなら、知らない方がよいこともある。
体調不調と聞いたら、本気で相手の体調を心配するような、そんな純粋な心のままでいて欲しいものだ。
「長い休みは気が緩んで体調を崩す人もいる見たいですね。若いといっても気をつけましょう」
本人たちのいないところで、これくらいの皮肉はいいだろう。
体調を崩しているのが本当だとしても、そうでないとしても、気を抜いている時点で同じだ。
役職や年代が上がるほど、気を抜く冒険者(サラリーマン)はいる。
そんな冒険者(サラリーマン)は、年寄り扱いするくらいが丁度いい。
☆★☆★☆★☆★☆★
「年末年始はゆっくり休めましたか?」
今日は挨拶だけのつもりなので、堅苦しいクエスト(お仕事)の話をするつもりはない。
軽い世間話を振ってみた。
後輩と見習い魔法使い(プログラマー:女性)には、年明けに会った。
なんとなく、見習い魔法使い(プログラマー:男性)に視線を向ける。
「ええ、泊りがけで旅行に行ってきました」
「付き合っている彼女と一緒だそうです」
見習い魔法使い(プログラマー:女性)が絶妙なタイミングで補足を入れてくる。
どうやら彼は、世間の男性から爆発を願われる側の人間らしい。
「わ~、いいな~」
「えっと・・・どうも」
後輩が黄色い声を上げる。
見習い魔法使い(プログラマー:男性)は、なんといっていいか分からないが照れくさい、といった表情だ。
そんな初心な表情をされると、微笑ましく見守るしかない。
「プログラマーの方は残業になりがちですし、休暇を有効活用できてよかったですね」
「はい。彼女にねだられて、ちょっと奮発しちゃいました」
休暇明けで、ふわふわしているのか、大人しそうな彼には珍しく、惚気がきた。
まあ、昨年はクリスマスイブに休出したり、カップルにとっては危険なできごとがあったはずだが、仲が良いようでなによりだ。
それで別れたなどと聞かされたら、良心の呵責に耐えられなかったところだ。
それに比べれば、惚気を聞かされるくらいは、可愛いものだ。
生暖かい目を見てあげよう。
「じゃあ、今年もよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
しばらく雑談をした後、自分の席に戻った。
☆★☆★☆★☆★☆★
「今日は、まだお正月の気分が抜けません~」
隣で仕事をしながら後輩が呟いている。
仕事中に気が入っていないという意味なので普段なら注意するところだが、実は自分も似たようなものだ。
何日も続くようなら別だが、今日くらいは厳しいことは言わない。
リハビリのつもりで、徐々にモチベーションを上げていこう。
周囲を見ても、挨拶まわりのついでに雑談をしている姿を見かける。
みんな似たようなものだ。
「今日は早く仕事を終わって、軽く飲みに行く?」
「はい~」
にぱっと笑顔になって即答してきた。
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