第32話 ボス戦

 先週は首都(東京)でのクエストがあった。

 100%成功というわけではないが、自分の役割はこなした。

 後は現地の人間に任せよう。


 月曜日。

 ギルド(自社)に到着すると、課長や後輩に土産を配る。


「おつかれさまでした~。そういえば先輩、今週の週末はお暇ですか~?」

「来週、リリースがあるからなあ。なんとか休出せずに済ませたいけど」

「そうでしたね~・・・」


☆★☆★☆★☆★☆★


 土産を片手に魔法使い(プログラマー)たちのもとへ向かう。

 来週ひかえているボス戦(お客様へのリリース)の準備状況を確認するためだ。


「これ、お土産です。皆さんで、どうぞ」

「ありがとうございます」


 箱ごと土産を渡す。

 どうも、声に元気が無い。


 ちらっ。


★魔法使い(プログラマー:男性)は目がぎらついている★

★見習い魔法使い(プログラマー:男性)は眠そうにしている★

★見習い魔法使い(プログラマー:女性)はクマに取りつかれている★


 全員、状態異常にかかっているように見える。


「お疲れのようですが、大丈夫ですか?」

「最後の追い込みで、ここ数日は毎日終電です」


 徹夜でないだけマシだが、大変そうなのは気になる。

 蟲型モンスター(プログラムバグ)の大量発生などしていないだろうか。



「大変そうですが、お手伝いできることはありますか?」

「いえ、中間リリース時の反省から、定期的に性能評価と耐久試験をするようにしたので、現時点で大きな問題は残っていません」


 詳しく話を聞いてみると、残っているのは小さな問題ばかりで、数が多いので手分けして対処しているようだ。

 テストも一通りは終えていて、問題の修正と再確認を残すだけらしい。

 たしかに、魔法(プログラム)の作りに詳しくない自分では、あまり手伝えることはなさそうだ。


「来週の月曜日がリリースですが、問題なさそうですか?」

「今のところ問題ありません」

「致命的な問題が見つかったら、調査する前に、見つかった時点で連絡をください」

「わかりました」


 中間リリースのときは、報告せずに対処しようとして、大変な目にあったのだ。

 懲りているだろう。

 今回は素直に連絡をくれると信じよう。


☆★☆★☆★☆★☆★


 金曜日の夕方、魔法使い(プログラマー)たちのもとへ向かう。


「リリース準備が完了しました。月曜日に予定通りリリースできます」

「ありがとうございます。今回は順調でしたね」


 休出も徹夜もなく、準備を完了する。

 スケジュール通り進めているはずなのに、なぜか毎回、最後にギリギリの状況になることが多い。

 そんな業界にしては珍しいことに、今回は順調だった。


「リリースは月曜日ですが、軽く打ち上げでもしますか?」


 感謝の意味も込めて、提案してみる。


「残作業でリリースノートを作らないといけないので、二人を連れて行ってやってください」


 魔法使い(プログラマー:男性)は行けないようだ。

 打ち上げをするには、気が早かっただろうか。


「ごめんなさい。今日は早く帰って眠りたいので」


 見習い魔法使い(プログラマー:男性)も行けないようだ。

 眠そうにふらついていて、無理強いするのは気が引ける。


「えーっと・・・わたしだけですけど、いいですか?」


 見習い魔法使い(プログラマー:女性)は行けるようだ。

 半数以上が行けなくなってしまい、打ち上げではなくなってしまったが、今さら中止とも言いづらい。

 彼女だけでも労わろう。


☆★☆★☆★☆★☆★


 課長と後輩も誘おうと思ったのだが、今日は二人とも帰ってしまったようだ。

 どうも、思いつきで提案したことが、空回りしている気がする。

 次からは、もう少し、計画的に行動しよう。


「希望の店はある?」

「名古屋コーチンの手羽先が食べられる店があるんですけど、そこでいいですか?」


 連れてこられたのは、親子丼を食べに来たことがある店だった。

 夜は居酒屋になるようだ。


「ここ、おいしいよね」

「知ってましたか。親子丼やプリンもオススメですよ」

「そっちは食べたことある。手羽先は食べたことないけど」

「じゃあ、ここにしましょう」


☆★☆★☆★☆★☆★


 とりあえず、彼女のストレスがだいぶ溜まっていたらしいことだけ記しておく。


 先輩の無茶ぶり。

 頼りにならない同僚。

 etc


 アルコールが入るたびに愚痴の数が増えていった。

 ちょっとは、気晴らしになったかな。

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