サラリーマンは夢を見る
かみゅG
第1話 冒険のはじまり
大学卒業後、IT企業に入社。
システムエンジニアとして数年を経験。
通勤時間は電車で30分。
趣味はレトロゲーム。
ワンルームマンションに一人暮らし。
ごくごく一般的なサラリーマン。
それが自分だ。
ぱちり。
ベッドの上で片目を開ける。
カーテンの隙間から入る朝日が、天井を薄く照らしている。
寝起きに両目を開けないのは、癖のようなものだ。
以前テレビで、目から入る日の光で、人間の身体は目を覚ますのだと、聞いたことがある。
それ以来、心地よい夢の中から、ゆっくり目覚めるように、なんとなくそうするようになった。
スマホを引き寄せて時刻を見る。
朝の6時30分。
目覚ましのアラームが鳴っている。
ぺたっ。
スマホの表面を適当に触って、アラームを止める。
たまに一度で止まらないときは、いらっとするが、今日は一発で止まった。
・・・・・
30秒ほど、ぼーっとする。
これも癖のようなものだ。
以前テレビで、血液は車にとってのガソリンのようなものだと、聞いたことがある。
それ以来、脳と身体に充分な血液が回ってから動いた方が、すっきり起きれそうな気がしている。
そういえば別の番組で、頭を使った仕事をすると、脳がカロリーを消費すると聞いたことがある。
逆に言えば、ぼーっとしていても、脳に血液は回らないのではないだろうか。
だとすると、ぼーっとしていても、意味がない。
まあ、気分的な問題なので、どうでもいいか。
のそり。
さらに30秒ほど、ぼーっとした後、ベッドから起き上がった。
リモコンを引き寄せて、部屋の明かりを付けた。
がさがさ・・・もぐ。
テーブルの上に置いてあった菓子パンの袋を開け、食べ始める。
前日の帰宅時にコンビニで買ってあったものだ。
だいたい、曜日で買うメニューが決まっている。
特に意識していないが、同じものを食べたくなる周期が1週間くらいらしい。
たまに、気まぐれを起こして別のものを買ったり、新商品を見つけたら衝動買いするので、決まりというほど決まっていないが。
ぺたぺた・・・ごくり。
冷蔵庫まで歩いていき、ペットボトルのお茶を飲む。
ペットボトルは休日に近所のスーパーで買う。
普段、会社から帰ってきたときは閉店しているが、箱買いすると安いので、そうしている。
ちなみに、菓子パンは賞味期限が1週間ないので、コンビニで買っている。
ぴっ。
テレビからニュースが流れ始める。
学校が夏休みのためか、平日だが観光スポットの紹介をおこなっていた。
恐竜の化石を発掘するのが流行りらしい。
小学生の自由研究にもよいそうだ。
他には興味のある話題も無かったので、音声だけ聴きながら、歯を磨き、顔を洗う。
もぞもぞ。
パジャマを着る習慣はない。
一人暮らしだし、夏場は暑いので、Tシャツとトランクスだ。
ちなみに、冬場でも暖房を効かせた部屋の中で、Tシャツとトランクスだ。
朝にシャワーを浴びる習慣はないので、そのままカッターシャツを着こみ、さらにスーツを着る。
クールビズ期間中なので、ネクタイは無しだ。
客先に行くときのために、カバンには入れてある。
客先でもクールビズを推奨しているところもあるが、年配の人は会社の方針とは別に、よい顔をしないことがある。
初見の相手に会うときは、ネクタイを巻いていった方が無難だ。
ぴっ。
天気予報と占いコーナーを見終わるとテレビを消した。
天気は晴れ、運勢はそこそこだった。
ラッキーアイテムは赤いスカートらしい。
せめて、男女の両方が持てるアイテムにして欲しい。
今日の運勢は諦めよう。
こつこつ。
つま先で床を蹴って、踵を靴の中に入れる。
そういえば、ラッキーアイテムは誰がどうやって決めているのだろう。
よく毎日ネタが尽きないものだ。
根拠もないだろうし、本気で信じているわけではないが、労力分くらいは信じてもよいかも知れない。
赤いスカートを身に着けるつもりはないが。
ガチャ。
エアコンで冷えた部屋に、しばしの別れを告げ、玄関の扉を開ける。
途端にセミの声が鼓膜を振動させる。
エアコンをつけるために窓を閉めていたので気づかなかったが、今日も朝からうるさい。
ぴっ・・・かちゃ。
うっかり消し忘れたエアコンを消し、玄関に鍵をかける。
朝の時間帯なので、気温はそれほどでもないが、会社に着く頃には汗ばむくらいになっているだろう。
真夏の空の下を歩きだす。
さあ、今日もクエスト(お仕事)のはじまりだ。
☆★☆★☆★☆★☆★
サラリーマンにとって、お仕事とは戦いである。
サラリーマンにとって、スーツとは鎧である。
サラリーマンにとって、スマホやノートPCは武器である。
クエスト(お仕事)を成功させれば高い報酬(ボーナス)を得るが、失敗させれば低い報酬(ボーナス)となる。
危険なモンスター(無茶振りする顧客)に挑戦するほど、ハイリスク/ハイリターンとなる。
日々、危険と隣り合わせのダンジョン(顧客との交渉の場)を、自分と仲間の力を頼りに駆け抜け、モンスター(無茶振りする顧客)を討伐して、クエスト(お仕事)の成功を目指す。
ゆえに、サラリーマンとは冒険者である。
これは、そんな冒険者の日常を描いた物語である。
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