7月22日-6-
「でも、女の子に年齢の話しと体重の話しはタブーだよ?」
僕は一度だけため息を吐いて、不満気な表情で小さく頭を下げた。
「いや、うん。なんか良く分からんが何かごめんなさい」
「そうだよ!女の子はデリケートなんだから」
スプーンをくるくる回し、悠里は言った。
悠里は半端に口が立つ、きゃんきゃんうるさいタイプだな。
「それじゃ、私が何歳か分かるかな?」
自分でも薄々気づいていたが、多分この質問はされるだろうと思っていた。
思った印象より五つ位上で答えてやろうとか考えたが、無駄に傷つかれても困る。
それこそ、芹香と僕の二人じゃ会話にもならないし、悠里にモチベーションを下げられても困る。
食事が、お通夜になる事は避けたい。
しかし悠里は悩むところではある。
顔は、まぁ・・・黒髪美少女といった雰囲気だし、色白のスレンダー系の美人だ。
だけど、これまでの言動がそれをダイナミックに台無しにしている。
正直分からん。まぁ、芹香に至っても深く考えずに当てずっぽうに返しただけだしなぁ。
とりあえず直感で・・・
「じゃぁ・・・22歳で!」
分からんが、見た目だけで芹香より上かもって理由で答えた。
「ファイナルアンサー?」
あぁ、くだらない。
「どぅるるるるる~」
こんなの苦笑するしかない。
「ばん!!正解は25歳でしたぁー」
どや顔で悠里は言ったが、驚くような展開では無いがな。
妥当な線ではある。
つーか、タメ年かよ。
「あぁ、じゃ僕と同い年だな」
「そうなんだ。宜しくね!」
何が宜しくなのかは分からないが、僕と同い年である事に何か突っ込んでくるかと思ったが、案外そうでもないんだな。
だらしなく足をブラブラさせながら頬杖をつく悠里。
「て事は・・芹香ちゃんだけ年下な訳なんだね!」
そう言って小さく、そっか、そっか~と呟くと、思い出したかのように手を叩いた。
「あっ、そうだ!正護君は今日はどうするの?」
どうするも何も、一人で色々と見て回ろうかと思っているだけだがな。
それを説明したとこで、私達もお供するでござると言われたら面倒だな。
「いや、まぁ・・特には」
適当にはぐらかして、こいつらと別れたい訳だが、その算段は思いついていない。
それと、普通に得たいの知れない感じがする。
自分で言うのも辛くなってくるが、こんな根暗で陰キャ感丸出しの僕と一緒に居たがるのが不自然に思えてならない。
もしも、ここが学校だったら、こいつら二人はクラスのトップカーストに君臨出来るであろうポテンシャルを秘めているが、僕はクラスの中でワースト1、2を争う存在感の無さだと思う。
自虐が過ぎるが、僕と一緒にいて良かったと思えるようなメリットは皆無だ。
「じゃぁさ、ご飯食べたらアタッシュケースを取りに外に出ようよ!」
「いや、今日も支給品が来るとは限らないんじゃないか?」
怪訝な顔で僕が言うと、悠里は慌てたようにパタパタと手を振った。
「いやいや、毎日送られてくるかも知れないじゃん!!」
「そうか?それはちょっと大盤振る舞いな気がするんだが?」
「行ってみようよ!届くかもしれないんだし!」
ほんわかとしつつもやる気がみなぎった眼差しで僕を見据える悠里。
「ねっ?芹香ちゃん!」
急に矛先を向けられた芹香は落ち着いた様子で答える。
「お二人に従いますわ」
こいつはこいつで自分の意見をまるで持っちゃいない。
仮に、僕がソロ活動すると言ったら、悠里側に付いて反論するに決まっている。
結局、二人に従うと言ってはいるが、実質は悠里の意見を尊重する気だろう。
何故に、ここまで悠里に従うのかは不明だが、それは今はどうでもいい。
大事なのは、こいつらの納得の行く別れ方を探す事である。
「いや、それなら僕は一人で行動したい」
「なんでさ?」
悠里は不思議そうに首を捻っている。
ここからの折衝は、二人に論破されないように気を引き締めないといけない。
「何回か言ったが僕は一人で行動したいんだ」
「色々と二人じゃ危ないし、正護君が居てくれると助かるんだけど・・・」
色々と・・その言葉に含みでもあるのだろうか、探るような目線を僕に向ける。
「色々って?」
「女の子二人だし・・・それに正護君頼りになるかもだし!」
なんだよ、かもって。
こいつは本気でそう思ってんのか?
主催者側から、僕に質問が来た時の、あの情けないあたふたしたやり取りを横で見ていただろうし、黒田に追い詰められて、へこへこと謝って逃げ出すような姿も見ているはずだ。
「頼りに?あり得ないだろ?」
鼻で笑って僕は答えた。
こいつの発言、一つ一つが胡散臭い。
「ほ、本当だ・・・よ?」
震えるように、不安に顔を歪ませている。
いや、はっきり言えば、その表情で庇護欲を掻き立てているとしか思えない。
同情する訳にはいかない。
悠里の頼りになるかもって発言が、僕を冷静にさせた。
演技には騙されない。
「どこが頼りになる?お前達の狙いは何なんだ?」
疑をもって僕は言った。
「狙い・・・なんてないよぉ」
下を俯き悠里は震えている。
今にも泣き出しそうな勢いではあるが、僕にはそれは逆効果だ。
女性は困ったら泣けばなんとかなるって思っている節がある。
特に、可愛かったり綺麗な女性ほど効果は上昇する。
全ての女性がそうではないが、悠里のそれは泣き落しに思えてならない。
「でも・・・」
俯いていて分からないが、まぶたに手をやり涙を拭くような仕草をする悠里。
「頼りになるって言ったのは嘘だよ」
やっぱりとは思ったが、案外素直に薄情してきたな。
そう言った後、消え入るような小さな声で、ごめんなさいと呟いた悠里。
「じゃぁ、僕と一緒にいるメリットはないはずだ!」
追い詰めるように僕は言う。
しかし、何も返してこない。
静寂が訪れる。
この空気は個人的に耐えられない。
僕に向かって饒舌に話す悠里が、下を向いて落ち込んでいるさまは心苦しいが仕方ない。
僕は黙ったまま、芹香の用意していた炒飯に手をつけた。
カチャカチャとスプーンの音だけが聞こえる。僕が不安に思っていたお通夜状態になってしまった。
どう話し合ったって、こういった結末しか成し得ない。
笑顔で納得する形にするには、どちらかが折れる選択肢しかない。
双方ともそれを拒んでいたらこうなるしかないよな。
芹香だけはどう考えているのかは分からないけど、二人の話し合いに混ざる様子もない。
とりあえずはこの空間から脱したいから、さっさと食事を済まそう。
半ば急いで炒飯を平らげると、短いため息を吐いて僕は立ち上がった。
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