明き翼に願いを乗せて

CarasOhmi

明き翼に願いを乗せて

#1 海原の灯火

「おーい!みんなーっ!」

 窓ガラスを挟んだ向こうから「彼女」の声が聞こえた。博士と助手は、聞き慣れた声にすぐさま振り向いた。

「かばん?」「そのボートは一体どうしたのですか?」

 かばんは一隻のボートに乗って二人を見上げていた。彼女曰く、このボートはラッキービーストに修理を頼んで、ここまで持ってきたのだという。なるほど、と感心する間も与えず、かばんは険しい表情で再び口を開いた。

「それより聞いて、このホテルは……もうすぐ海に沈むと思う」

「……はぁっ!?」

 驚いて真っ先に窓ガラスに飛びついたのはハブだった。オオミミギツネもブタも、突如として突き付けられた状況に困惑を隠せずにいた。

 海から顔を出したイルカとアシカは、状況を説明した。海底火山の活発化、そこから予想されるセルリアンの大量発生。その場に居合わせたフレンズたちは、みな青ざめた。

「海は私たちが見張っているから、皆はあの子と絵を!」

 かばんの声が響く。号令を受けたフレンズ達は、大急ぎでホテルの中へと駆け出した。これ以上セルリアンが増えたら、どうなるかなんて解からない。

 キュルルを見つけ出す。絵を見つけ出す。それがこのフレンズ型セルリアンの大発生を、フレンズを脅かす異変を解決する唯一の方法なのだ。


 * * *


 かつて、かばんはハンターを務めるフレンズから、親友の事を諦めろと釘を刺されたことがある。彼女の言葉は正しい、今のかばんはそう思っている。だが当時のかばんは、それを受け入れることができなかった。彼女はどうしても、親友を窮地から救いたかった。

 数々の冒険の日々、彼女は想像を超えるような悲しい状況に何度も直面した。そんな数えきれぬ試練を乗り越えてきた今も、やはり彼女は「フレンズ」を失いたくないと考えている。その気持ちは彼女の人格の根本であり、変わらぬ信念だ。……だが、それでも彼女はここまでの旅の中で、一番失いたくなかった、大切なものを失ってしまった。だから、彼女は確固たる意志を持って、かつての自分が選んだ道とは異なる道を歩もうとしている。

「そう、あの子の大切な絵を――」

 用意した「道具」をポケット越しに握り、その存在を確かめる。遥か彼方まで、何ひとつとして遮る物の無い水平線。傾いた日に背を向けて、かばんの瞳に炎が揺れる。あまりにも暗く、冷たい、なみだにじんだ決意の炎が。

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