*番外編-学園長-

『すまねえな、残ってもらって。』


気まずそうに頭を掻いた学園長。

下を向いている為表情は窺い知れないが、声色だけでフィオナを気遣っている事はわかった。


フィオナのこれからの話が纏まり皆解散となった際、彼女だけ留まるように引き止められたのだ。


当然、彼女を除く全員に非難の視線を向けられた学園長だったが、妖精族特有のご都合主義だと強く主張されてしまっては従わざるを得なかった。


あの小さな妖精達まで追い出されて完全に2人切りだ。


『その…さ。』


しかしようやく顔を上げた彼は、先程までの自信たっぷりな姿はどこにも見られなかった。

切り出す言葉を探しているのか、なんとも歯切れが悪い。


居た堪れなくなったフィオナは口を開いた。


『他の皆さんに知られると良くないお話でも?』


思えば学園長は最初から彼女の身の上を知っているようだった。

自分でさえ思い出せなかった名前を何故どこで知っていたのか。


『はあ、やっぱり演技でも何でもねえんだな。』


その言葉で疑いが確信に変わった。


『やっぱり私の事を知って…?!』


しかし、それ以上言葉を続けることが出来なかった。目の前にいる彼は今にも泣き出しそうだったからだ。

いつのまにか金眼の妖精の姿に戻っており、

眉をハの字に下げ、ぐっと何かを堪えた表情。


『俺の事も綺麗さっぱり忘れちまったって事だよな。』


そろそろと、視線を合わせたままフィオナの方へ歩みを進める。


『話し方も違えし、完全に別人だと割り切るしか無えよな?』


まるで必死に自分に言い聞かせるような、心細い声。フィオナの目の前まで近付くと、徐に彼女の右頬に手を添えた。


『フィオナ、俺達は…。』


『…私達は知人だったのですか?』


がっくりと肩を落とした彼を見て、失言だったと気が付いた。が、時すでに遅し。


『ああ、俺達は知り合いだ。

ゆっくりで良いから、必ず思い出してくれ!』


次の瞬間、力強く抱き締められる。


『俺達の種族は長命だ。だから、今すぐに思い出そうとしなくていい。

でもな…。』


いつか俺の事を思い出してほしい、と耳元で囁かれる。掠れた声は切実で、胸が苦しくなった。

もう軽々しく身の上話しをして欲しいなどと言えそうにない。


『あれ?』


内心で戸惑っていると、いつの間にか両頬に温かい感触が伝っていた。それが涙だとわかり複雑に思う。悲しい感情なんて抱いて居ないのに、一体なぜ?


『はは、身体は覚えてくれてんだな。』


続いて訪れた柔らかい感触。

彼の唇で涙を吸い取られたと気付き、さらに動揺した。

彫刻のような端正な顔がリップ音と共に近付いては離れを繰り返している。

金眼が切な気に揺れて妙に色っぽい。


恥ずかしい。

抱き締められた状態なため、避けようが無い。

せめてもの抵抗で顔を逸らすと、フッと短く笑われた。



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